
南アルプス甲斐駒ヶ岳の北麓にある尾白川渓谷は、その上流を流れる尾白川にちなんで名付けられた渓谷で、深い森と清流の美しさで知られ、山梨県で最も有名な自然スポットのひとつです。花崗岩の山々に囲まれ、そびえ立つ古木に満ち溢れ、この渓谷は一年中どの時期でも人気があります。渓谷には、巡回式の遊歩道があり、川に沿っていくつもの注目に値する滝や淵が点在するのも魅力です。甲斐駒ヶ岳の新鮮な山水はその清らかさで非常に有名で、周辺エリアには数多くの酒造所やサントリー白州蒸溜所があります。みなさんご存じの「サントリー南アルプス天然水」のふるさと、清らかな水に出会いに出かけます。
中央道小淵沢ICで降りて国道20号で道の駅はくしゅうを目指します。道の駅はくしゅうを右折し県道614号からべるが通りを直進し、案内板に従って北杜市営駐車場に車を停めます。写真はべるが通りから見た甲斐駒ヶ岳
駐車場から未舗装だが幅広の道を5分歩くと竹宇駒ケ岳神社と尾白川吊り橋があります。このエリアで人気のある撮影スポットです。人里離れた苔むしたこの神社は、幽玄なる神木に囲まれ古色蒼然とした神秘的とさえいえる外観で知られています。甲斐駒ヶ岳の名称は建御雷神から生まれた天津速駒という白馬が住んでいたことに由来します。同様に尾白川もこの白馬の尾から取られたものです。甲斐駒ヶ岳は信州の人、今右エ門の次男、権三郎(後に弘幡行者開山偉力不動尊)によって開かれた信仰の山です。駒ケ岳神社は甲斐駒の麓にあり、今から270年前に駒ケ岳講信者が建立し、須佐之男命の子、大躬貴命が祀られています。
竹宇駒ケ岳神社は甲斐駒ヶ岳山頂にある本宮の前宮です。境内には環境省選定の名水百選「白州・尾白川」の水が湧きます。
社殿左奥のつり橋で尾白川を渡ると、いよいよ樹林帯の中の山道です。狭い橋からは渓谷と川の眺めを楽しむことができます。
甲斐駒黒戸尾根への登山道と分かれ、千ヶ淵へと向かう尾白川渓谷道へ進む。途中何度か千ヶ淵へと案内する標識があるが、鉄梯子などのある渓谷沿いの道を歩く事10分ほどで千ヶ淵に到着する。吊り橋付近は、川幅が狭くて流れが速いので暑い時期には川遊びをするには最高の場所です。
千ヶ淵はエメラルドグリーンの水が有名で、駐車場から僅か15分の場所にあります。少しわかりにくいのですが、渓谷の上流の木の下闇に、緑の水を湛えた滝壺が見えます。この神秘的な暗がりの千ヶ淵から明るい河原へ流れ出す清流。コントラストが渓谷の美しさを印象付けます。ハイキング感覚の人はここまでで、ここを越えると遊歩道は急勾配の箇所が多くなるので、奥へと探索に行く場合は必ず登山用の装備をしておくことが重要です。
千ヶ淵からはいきなり急勾配の鉄階段、その後も小さな登降を繰り返す道は、渓谷の遊歩道というよりは登山道、トレッキングに近く体力を消耗します。尾根道や鎖場の斜面、赤ペンキの道標に頼る場所もあります。
数段に渓流が滑り落ちる三重の滝を見ながら高度を上げていきます。
千ヶ淵から歩く事35分、旭滝の到着です。『朝早く登ると太陽の光に映えて滝しぶきは、七色の虹となり、滝はコバルト色に輝き、その美しさは絶妙です。その昔、女行者が住んでいましたが、戦後いずこにか立ち去ったとも云われ神秘の滝でもあります。』との解説版が立っています。この滝の場所も分かりずらく、解説板の奥から岩屋の裏に回り込むと旭滝が現れます。滝しぶきで滝姿がよくみえないのではと思えるくらいです。
旭滝から5分の急な上りを終えると道は平坦となり10分で深緑の水をたたえる百合ヶ淵に着きます。『面前にそそり立つ巨大な屏風状の岩が「グドバ岩」で、このあたりは野猿のホームグランドでもあります。(ある日一人の行者が登って行くと一輪の山百合の花が川瀬に止りしばらくすると花は静かに沈んでそこにはポッカリと穴があき満々と水をたたえ始めました。行者は甘い香りにしたり一刻を深い根室にさそわれたという伝説のある淵です。)』と解説版があります。
百合ヶ淵の先が今回のコース一番の難所。小尾根の登りになります。根っこが多いので、木の根をつかみ、岩をよじ登ります。
登り終えて眺める神蛇滝に美しさはひとしおです。深い森の奥で白い花崗岩の岩壁を3段に落ちる滝の姿、まさに一幅の絵のようです。行者が龍に教えられて見つけたのでこの名がついたといいます。解説板には『百合ヶ淵で深い眠りにさそわれた行者は目をさますと枕辺に龍が現れ“この石を渡り前を見なさい”といいました。行者は石を渡り木々の枝を折って前を見ますとそこには美しい三段の滝が現れました。行者はあまりの見事さに茫然として眺めそして自ら口走りました。“あれが神蛇滝だ 今 休んでいるところを龍神平と呼ぼう”』とあります。大きな一枚岩の前に腰を下ろして心ゆくまで眺めていたいものです、
神蛇滝の先で、下山路の尾根道を分け、今コース最奥の不動滝を目指します。体力や時間のない方はここで尾根道方向で下山します。しかし尾白川渓谷で最大の滝は不動滝ですので、体力、時間に許す限り行かれることをお勧めします。道は山の中腹、大木や大岩があり森の深さを感じながら、樹林帯の中を行く。小さな登降を混じえたほぼ平坦路ですが、一部は急登降やロープに頼る急崖や涸れ沢もあります。
片道1.4km、約40分ほど歩くと森が開け、吊橋が現れ、眼下の河原に不動滝が見通せます。解説板には『その昔、一人の延命行者が駒ケ岳への入山を許された。行者はこの滝にうたれ修験の道に励みとうとう駒ケ岳への登山道を開いた。行者がいずこかえ立ち去ると滝のしぶきが前の大岩をたちまちけずり人の顔をかたち造った。よく見るとその時の延命行者に似ているという。』と書かれています。
河原まで降り、目の前に立ちはだかるように横たわる大岩を、設けられたロープをたよりによじ登ります。
登りきって岩間を進むと、落差30mもあろうか、豊かな水量の豪快な滝が現れます。尾白川渓谷で一番の規模を誇る不動滝。周辺の大岩やそそり立つ岩壁が一層の迫力をかもし出しています。
帰路は再び神蛇滝近くの尾根道分岐まで来た道を戻り、樹林帯の中、距離にして約2km、45分、尾根道を下り北杜市営駐車場に向かいます。総歩行距離8.4km、所要時間約3時間半のトレッキングでした。
下山後は駐車場から車で5分の甲斐駒ヶ岳温泉尾白の湯へ。「白州・尾白の森名水公園べるが」にある日帰り入浴施設です。山梨県北杜市にある「名水公園べるが」は「名水・森・人」をテーマにした広大な敷地を持つ発見型自然公園。“尾白川えん堤”や“べるが池”での水遊びやにじます釣りもお楽しみ。日本名水百選にも選ばれている尾白川の清らかな水と豊かな森に囲まれ、一日中楽しめる公園です。
公園内にある甲斐駒ヶ岳温泉尾白の湯は塩分濃度が高く、また1kg中31600mgと温泉法による有効成分基準の溶存成分総計の約30倍を誇り、湧出温度は39.5℃。保温、美肌、関節痛にいいと評判です。この源泉100%の露天風呂「赤湯」に南アルプスを眺めながら浸かると、疲れた筋肉のこわばりがとろけるように柔らかくなっていくのを感じる。
もう一方の露天風呂や内湯の「白湯」は、源泉と名水との混合泉です。強塩泉から造られた塩を使った山脈ラーメンや塩アイス、塩サイダーが人気です。
江戸時代に甲州街道(国道20号)41番目の宿場町として栄えた台ケ原宿は、今でも古い民家や蔵が点在し、日本の道100選に選ばれている通りには情緒ある酒蔵や和菓子屋が並びます。山梨を代表する酒蔵「七賢」が町営するレストラン臺民で昼食を頂きます。山梨銘醸は、江戸時代の寛永3年(1750)創業の歴史ある老舗酒蔵です。甲斐駒ヶ岳の伏流水で仕込んだお酒は「七賢」の名で知られ、銘は中国三国時代に政治的緊張から逃れるために酒を飲み、詩を書き記した「竹林の七賢」に由来します。
酒蔵見学の方たちが食事を取れるようにと、またお酒のアンテナショップとして2000年にオープンしました。建物は明治初期の家屋私財を再利用しています。1階にカフェ、2階が食事処です。七賢の仕込み水がいただけます。
店内は、古い柱や当時使われていた和紙の酒売台帳が壁に貼られていたり、さり気なく散りばめられた歴史の面影にロマンを感じます。お料理は、「発酵」の技を活かし、地元食材をふんだんに使った酒蔵の伝統料理で、体にやさしいものばかり。なかでも「鮭(麹漬け)定食」は酒蔵直営ならではのメニューです。蔵人手作りの麹にゆっくりと漬け込まれほどよい甘味と旨味をまとまった鮭が口の中でやさしく広がります。
お向かいには明治35年台ケ原宿の旅館が菓子店となった金精軒が120年たった現在でも尾白川の名水を使ったお菓子を生み出しています。山梨銘菓として愛されてきた信玄餅、極上生信玄餅、くるみ信玄餅は、この土地ならではの味わいです。
この時期夏期限定のお菓子「水信玄餅」がいただけます。台ケ原金精軒は名水の里・山梨県北杜市白州町にあり、言わずと知れた国内でも有数の採水地です。この白州の名水を極限まで少なくした寒天4で優しく固めた水菓子が「水信玄餅」です。透明で、ちゃぷちゃぷ揺れるほどに柔らかく、まるで“水そのもの”を食べていりかのような味わいが特徴です。店頭その場でいただく消費期限30分の水菓子は、サントリー南アルプス天然水付きです。
「山梨・白州の森が育んだのは、森の香りのシングルモルト」はこちらhttps://wakuwakutrip.com/archives/17015
白州町で甲斐駒ヶ岳を源とする尾白川の名水を堪能した一日でした。