
明治時代から樺太やロシアとの交易で港町として栄え、また多くの銀行や商社が支店を構えたことから“北のウォール街”と呼ばれた小樽。今もそんな歴史を伝える石造建築や倉庫が運河に沿って並び、独特の旅情を醸し出しています。また日本海に面した港町だけに新鮮魚介を活かした海鮮グルメが定番。みどころは小樽運河~北のウォール街辺りに集中していて、徒歩で巡れます。古きよき時代の日本を感じられる魅力ある小樽の街並みを歩けば、誰もがドラマの主人公になれる。運河、歴史的建造物、ガラス、オルゴール、海鮮、スイーツ・・・見る、買う、食べるを満喫する1泊2日の小樽の旅に出かけます。
小樽観光の玄関口JR小樽駅は、昭和9年(1934)に建てられた道内最古の鉄筋コンクリート造りのレトロな駅舎が人気です。
駅構内やホームには333個の「小樽ランプ」が飾られています。写真は平成10年(1998)の駅舎改修の際に取り付けられた、北一硝子が寄贈したものです。
小樽駅から海に向かって延びる緩やかな坂の中央通りを下っていくと手宮線と交差します。国鉄手宮線(手宮~札幌)は、明治13年(1880)に北海道で最初の鉄道、日本では3番目の鉄道として、アメリカ人鉄道技師ジョセフ・ユーリー・クロフォードの手により開通した官営幌内鉄道の一部です。幌内(現三笠市)炭鉱から石炭を港のある小樽まで輸送するルートとして開発され、2年後に全通しました。その歴史に幕を閉じたのは昭和60年(1985)、現在は、当時使っていた線路や踏切、遮断機といった遺構を残す手宮線跡として一般開放されており、寿司屋通りから小樽市総合博物館本館(手宮駅跡)までが約1.6kmの散策路として整備されています。
2024年NETFLIXドラマ『さよならのつづき』で線路の上を中田雄介(生田斗真)と菅原さえ子(有村架純)が裸足で歩いていました。また駅のバンチに座って成瀬和正(坂口健太郎)とさえ子も色々な話をしています。それが色内駅で、大正元年(1912)国鉄手宮線の色内仮停車場として開設、昭和18年(1943)の色内駅となり、現在の復元駅舎は休憩所になっています。色内とはアイヌ語のイルエ=ナイ(澄んでいない川)の音に漢字を当てたもの。
この辺りから観光スポットである歴史建造物群が点在します。小樽は明治から昭和初期にかけて、ニシン漁や貿易などで栄え、明治の北海道開拓を支える港湾として発展し、昭和初期には北海道経済の中核を担いました。中でも金融機関が軒を連ねた色内地区は「北のウゥール街」とまで呼ばれ繁栄を極めたといいます。その名残で町の中では今でもそこかしこに歴史ある建物を目にすることができ往時の面影を今に伝えています。明治45年(1912)築のルネサンス様式荘厳な建物は、現在金融資料館として、日本銀行の歴史や金融の仕組みを分かりやすく紹介している「日本銀行旧小樽支店 」です。東京駅などを手がけた建築家・辰野金吾とその弟子長野宇平次・岡田信一郎の設計で、かつて小樽が北海道経済の中心だったことを物語る名建築です。外観は煉瓦造り2階建てですが、表面はモルタルを塗り、石造り風に仕上げています。北側の正面には4つのドームが、側面の南東の角には小樽港を眺望する4階建ての望楼が配置されています。
通りをはさんで建つ明治45年(1912)建築の歴史的建造物「旧北海道銀行本店」は、日本銀行小樽支店の設計にも携わった長野宇平次の設計で、請け負ったのは地元の加藤忠五郎でした。地下1階地上2階建ての石造り亜鉛葺きの建物は、ルネッサンス様式で銀行建築独特の重厚さを持ち、玄関や窓まわりの石組みのデザイン、コーナー部分や窓の間隔の変化などに特徴があります。ファサード(正面)の左角は丸くえぐったデザインになっています。重厚感漂う店内で地元ブランドの「北海道ワイン」を中心に、100種以上のもの道産ワインを取り扱うショップ&カフェが小樽バインです。店名はワイン(WINE)と現在は北海道中央バス(株)の社屋の一角にあること(BANK BUS)に因んでいます。歴史の重みを感じる銀行当時の石壁が残る落ち着いた雰囲気の店内で贅沢な時が過ごせます。
かつて三菱銀行小樽支店として大正11年(1922)に建てられた建物を利用した小樽運河ターミナルは、バスターミナルも兼ねたおみゃげショップ。建築当初は、外壁に煉瓦色のタイルが貼られていましたが、昭和12年(1937)に現在の色調に変更さてました。1階正面には、ギリシャ・ローマ建築様式を表すように6本の半円柱が並んでいて、柱と柱の間にはクラシカルな窓がはめられていて、この建築を特徴づけています。
北海道に根差す大手家具・インテリアの「ニトリ」が、2017年9月にオープンさせた小樽芸術村は、運河近くの4棟の歴史的建造物から成る複合的なアート空間。旧北海道拓殖銀行小樽支店は、国会議事堂を手掛けた矢橋賢吉の設計により大正12年(1923)に竣工。地下1階地上4階建ての鉄筋コンクリート造りの建物で、「蟹工船」で有名なプロレタリアート文学の作家・小林多喜二が働いていたことで知られています。正面入口のアールの曲線が特徴的な建物で、1階は2階まで吹き抜けになっていて、古典的なデザインの白い円柱が6本建ち並んでいます。現在は、「小樽芸術村」に+の中の一つ似鳥美術館として、4階は日本画、3階は洋画、2階は木彫などを展示、地下1階がアールヌーヴォー・アールデコグラスギャラリーとなっています。
小樽市最後の都市銀行として2002年まで営業していた旧三井銀行小樽支店は昭和2年(1927)に完成した地下1階地上3階建ての鉄筋コンクリートの建物。設計は当時日本の建築界をリードしていた曽爾中條建築事務所によるもの。外壁に花崗岩を用い、アーチ窓を連ねたルネッサンス様式で、関東大震災から教訓を受け、当時としては最先端の耐震構造が用いられています。現在は「小樽芸術村」の建築美を紹介する空間として公開されています。
旧安田銀行小樽支店は、第2次世界大戦後、富士銀行が継承した後、昭和45年(1970)から新聞社の家屋となりました。ギリシャの建築様式をもった昭和5年(1930)築の典型的な銀行建築で、重量感あふれる円柱が特徴です。中央通りの道路拡幅に伴い平成13年(2001)に建物が斜め後方に約11m曳家され、同時に外観も修復されています。
そんな色内地区にオープンした今宵の宿がホテル「 OMO5 小樽 by星野リゾート」です。昭和8年(1933)に建てられた旧小樽商工会議所をリノベーションした南館と、新たに建築された北館の新旧二つの建物からなる。写真のフロントがある北館のラウンジには旧会議所時代の家具や備品がレイアウトされ、レトロモダンな雰囲気。客室はツイン、スーペリア、トリプルなど8タイプ、全92室。
連絡通路から南館へ移動した途端、昭和初期にタイムスリップしたかのような重厚なドアや石造りの階段、そして3階の大会議室を改装した天井の高い開放的なレストラン・OMOカフェ&バルでは、大きな窓から朝陽が差し込む爽やかな空間で、小樽を楽しみつくす朝食を、夜は北一硝子のオイルランプの灯りに包まれ、アンティークオルゴールの演奏を楽しむ温もり感じるバータイムの一時を過ごせます。
小樽といえばなんと言っても運河。周囲にしっとりと古びた倉庫が建ち並び、歴史を今にお感じさせてくれます。また小樽ならではの見どころ、寄りどころは、この運河の周りに集中しています。小樽運河は荷揚げや運搬作業を効率良く行うために海面を埋め立てて大正12年(1923)に完成し、運河に沿って石造倉庫が建ち並ぶ小樽イチの観光名所。倉庫のほとんどは大正~昭和初期に建てられたもの。海からの強風対策と海産物を保存するのに適したという石造りの倉庫は、現在では外観は昔のままに内部は改装され、レストランや観光施設などに利用されています。船からの荷物を倉庫に運ぶ小舟が行き交っていたという現在の運河は全長1140mで、御影石を敷き詰め、ガス燈が設置された散策路が昭和62年(1987)に整備され、レトロムードのなかそぞろ歩きが楽しめます。写真は運河の端にある浅草橋撮影。
小樽運河クルーズは、小樽運河中央橋発着の運河と港を巡る40分ほどのクルージングです。キャプテンが運河の歴史や倉庫・小樽港を案内してくれます。クルーズではたくさんの橋をくぐりますが、中でも特に低い“龍宮橋”をくぐる際に橋桁に触れると運気が上がるらしい。
小樽運河倉庫群を入口から見てみます。小樽ビール 小樽倉庫No1は、本場ドイツの醸造技術で作る地ビールが味わえるビアレストラン。ピルスナーやドンケルなどを、ビールに合うフードとともに楽しめます。2階に上がって無料の醸造所見学が楽しい・
おたる政寿司 ぜん庵は、昭和13年(1938)創業、小樽=寿司のイメージを広めた老舗の一軒「おたる政寿司」の支店。カウンター席からは浅草橋周辺の運河を見渡せます。
夜のライトアップされた小樽運河
昔の小樽をイメージした敷地内に小樽名物の半身揚げや海鮮丼をはじめ、天ぷら、ジンギスカン、ラーメン、焼き鳥など15軒が連なる屋台村が小樽出抜小路です。
海の発達した小樽には21の市場があります。その中でも小樽駅のすぐ左側に位置しアクセス抜群の市場が、昭和32年(1957)から変わることなく続いている三角市場です。市場内にある北のどんぶり屋 滝波食堂で朝から海鮮丼を食す。
小樽、北海道産の鮮度のよいネタをそろえる鮮魚店直営の店。①自家製イクラ②生ウニ③かに④本まぐろ⑤ぼたんえび⑥あまえび⑦サーモン⑧活ほたて⑨とびっこ⑩季節ネタの中から好きなネタを3~4品選べる「わがまま丼」をご飯小盛で注文。自家製イクラに活ホタテ、生ウニの3品をチョイス。
小樽イチのショッピングストリートであるゆるやかなカーブの「堺町通り」は、大正硝子館本店や小樽浪漫館のある堺橋周辺からメルヘン交差点までの約800mにわたってガラスショップやスイーツ店が続くお土産探しや食べ歩きなど、最も観光気分が味わえる通りです。周りを見渡せば多くの古い建物を利用した店舗が建ち並び、大正ロマンを感じさせるノスタルジックな路地もあります。
小樽名物といえば、明治期の石油ランプ製造から続く小樽ガラス。市内には現在もガラス工房が点在し、実用品からアート作品まで幅広いガラス製品が作られています。代表ブランドの北一硝子は、明治34年(1901)石油ランプと漁業用の浮き玉の製造から始まり、小樽のガラスを世に定着させた名門。販売・製造から美術館、喫茶、地酒蔵など堺町通りで北一ワールドを展開しています。明治24年(1891)に建てられた漁業用の木骨石張倉庫を昭和58年に譲り受け三号館として開店。店舗に利用した館内は、商品ジャンルごとに和・洋・カントリーの3フロアに分かれています。きらびやかなガラスが所狭しと並んでいます。
中央通路があるのが特徴で、通路を挟んでギャラリーの反対側にある北一硝子三号館 北一ホール(旧木村倉庫)では天井の高い倉庫内に一つ一つ手で灯される167個の石油ランタンが輝く幻想的な空間の店内で喫茶・食事が楽しめます。
チーズケーキのドゥーブルフロマージュで人気に火が付き、一躍全国区の製菓ブランドになった平成10年開店のルタオの本店の本店のほか、帯広に本店をもつ六花亭小樽運河店や空知の砂川市に本店を構える人気製菓メーカー北菓楼小樽本館といったここ小樽でしか買えない商品を扱うスイーツ店が軒を連ねます。昭和52年(1977)の誕生以来、50年にわたり愛されているロングセラー菓子“マルセイバターサンド”を販売する六花亭小樽運河店の2階テイクアウトコーナーで店舗限定の「マルセイバターアイスサンド」が購入できます。アイスクリームにホワイトチョコレートとレーズンを加え、ビスケットでサンドした1品。王道のマルセイバターサンドほど重くなくあっさりしていて美味しい。
隣接する北菓楼 小樽本館では、定番人気のバームクーヘン妖精の森や開拓おかきと並んで、小樽本館限定、それも入荷日が決まっている売り切れ必死の「果樹園の六月」があります。生地にリンゴ果汁をたっぷり染み込ませたケーキです。
最後にメルヘン交差点にそびえ立つルタオ本店へ。堺町の五叉路ことメルヘン交差点は、正式名称は堺町交差点といい、レトロな雰囲気が漂う人気のスポット。交差点前の広場は西洋風の建築物が並び、中でも小樽オルゴール堂やルタオといった観光名所は一層賑わっています。蒸気時計や常夜灯もメルヘン交差点の特徴のひとつで、オルゴール堂前に設置された蒸気時計は、バンクーバーのギャスタウンのランドマークとして知られる蒸気時計の製作者により制作されたもので、15分ごとに白煙とともに豪快な汽笛で時を告げる交差点の名物。常夜灯は、明治期に同市信町の丘の上にあった常夜灯を再現したもので平成9年(1997)にこの交差点の整備に合わせて中心部に設置されました。
運河、歴史的建造物、小樽ガラスと並び、小樽のロマンチックな雰囲気とマッチするもうひとつの要素・オルゴールは、小樽みやげの定番のひとつ。堺町通りでも多くの店で扱っていますが、なかでもメルヘン交差点に建つ道内有数の米穀商の本社屋だった明治45年(1912)築のレンガ造りの建物を再生させ、平成元年のオープンした小樽オルゴール堂本館が代表格です。宝石箱などのロマンチック系から寿司型などの面白系まで約3000種、約25000点に及ぶ幅広いデザインのオルゴールが高さ9mある吹き抜けのホールに揃っています。
1998年に小樽観光の中心であるメルヘン交差点にオープンした大きな塔のような外観が印象的な小樽洋菓子舖ルタオの店名は「親愛なる小樽の塔」という意味のフランス語「La Tour amitIe Otaru」の頭文字を小樽の地名に愛着を込めてアレンジし、「ルタオ(LeTAO)」と名付けられました。元々はチョコレートをメインとしていましたが、北海道産の素材をたっぷり使った、滑らかな口溶けが絶品のチーズケーキ「ドゥーブルフロマージュ」が全国的に有名になり、今や北海道を代表するスイーツ店です。
定番人気のドゥーブルフロマージュ以外にルタオ本店限定スイーツベスト3を紹介。①「ドルチーナ・クワトロフォルマッジ」は、ピザのクアトロフォルマッジをイメージした丸いフォルムのクッキーです。カマンベール・チェダー・ゴルゴンゾーラ・グラナパダーノ4種のチーズとクローバーはちみつを練り込み、つぶつぶチーズを閉じ込めたザクザク食感のチーズクッキーで、塩味のあるチーズと甘いはちみつの組み合わせがクセになります。②「プチショコラ アマンドホワイト」はローストしたカラメルアーモンドをホワイトチョコレートで包み、粉砂糖をまぶしています。アーモンドがカリッと香ばしく、ミルキーなホワイトチョコレートを甘すぎなくしています。③「ドゥ・フロマージュロール」は、ふっくらしたスポンジ生地の内側に特製チーズクリームをたっぷり使用し、ローリの中心にあるのは北海道産クリームチーズを使用したベイクドチーズです。
ホテルに戻り11時のチェックアウトで小樽駅へ。2泊3日の小樽の旅が終わろうとしています。