三重県三重郡菰野町と滋賀県東近江市の県境に南北に連なる鈴鹿山脈、その中央部からやや南の鈴鹿国定公園の中にあるのが、標高1212m、鈴鹿山脈の中で3番目ながら、花崗岩の鎧をまとった堂々とした山容は主峰と呼ぶにふさわしい御在所岳です。神がおわすところだから御在所。山の名の意味はストレートです。紀元前1世紀のころ、第11代垂仁天皇の皇女である倭姫命が、天照大神の神霊を大和から伊勢へ移す途中で、この山に頂に仮宮を設けたとされるのが由来です。
鈴鹿山脈は約2億5000万年前に堆積した秩父古生層を、9000万年ほど前にマグマが貫いた形でできているといいます。冷えたマグマは花崗岩となり、板状、柱状などの奇岩となって残っているものが多くあります。鈴鹿山脈の中で特に花崗岩地帯である御在所岳には登山道の中道で見られる地蔵岩や負れ石、山上公園の朝陽台に近い富士見岩、富士見岩から見下ろせる大黒石など、いずれも花崗岩の塊で屏風のように切り立つ露岩も多くあり山域には特徴的な奇岩が点在します。
奇岩や巨石といえば古代からのパワースポット。険しい山は修験道場にもなりました。奈良時代の始めごろには修験道開祖の役小角が登ったとも言われ、約100年後には伝教大師最澄が三岳寺という天台密教の寺を、御在所岳の北にある国見岳山麓に創建したといいます。時代が下がった明治17年(1884)には覚順という行者が木曽御嶽神社の分霊えを御在所岳に祀りました。
御在所岳はその風格、登りごたえ、景観と、訪れてみる価値は大です。登山道はいくつかありますが、往路を中登山道を歩き、復路はロープウェイを利用することにします。メインルートの中道には、岩の殿堂といえるぐらいパワースポットとして注目される地蔵岩や負ばれ岩等があり、変わった形の岩が点在する東海の名所です。岩壁を横切って進む場所など自然のアスレチックに挑戦してみることにしました。
JR東海の「青空フリーきっぷ」を使って四日市へ。三重県鈴鹿山脈セブンマウンテンの秀峰・御在所岳(標高1212m)は、日本二百名山にも選定されている東海地方の名峰です。変化に富んだ山容とそこにそびえる岩峰群が登山者たちを魅了する、アルペンムードが満喫できる格好のフィールドです。花崗岩が浸食により岩肌に現れ、色々な形の奇岩奇石が見られることで知られています。山頂付近までロープウェイが通じていて、気軽に山頂までいくことができます。
有料駐車場(終日1000円)のある御在所岳ロープウェイは、標高400mの地点にあるロープウェイ湯の山温泉駅と山上公園駅の高低差780mを所要時間約15分の空中散歩で結んでいます。かわいらしい赤いゴンドラが1分間隔で続々とやってくるという全長2161mの間にゴンドラが連なるシステムは、二本のロープを使って多数の小ぶりなゴンドラを循環させる複線自動循環式で、国内ではここと、広島県の宮島ロープウエーにのみ採用されているシステムとのこと。
途中には、鷹が胸を張っているような「鷹見岩」や「大黒岩」など驚くような奇岩・巨岩が待ち構えています。運が良ければ受験の神様でおなじみの野生のニホンカモシカにも会えるかもしれません。10人乗りゴンドラの特徴は窓が広く、乗客が着席するのでどの方向からもゆったりと空中遊泳の様子を見られること。直下150mの本谷を渡るスリル満点のロープウェイの高度感にびっくりしますよ。
御在所ロープウエイのシンボルは、ロープウェイの鉄塔として日本で一番高い、最高支柱高61mを誇る正式名「6号支柱」通称「白鉄塔」です。御在所岳の標高943mに建ち、正面から見るとひときわ目立つ白い鉄塔です。開通当時は他の鉄塔と同じ緑色でしたが昭和39年(1964)10月に白く塗り替えられました。この白鉄塔は東京タワーと同じリベット接合という高度な技術で造られています。空の青と山の緑を背に白光りして立つ姿が凛々しい。
今回はロープウェイではなく登山で山上公園までアタックします。御在所岳登山道は5コースあり、代表的なルートは「表道」「中道」「裏道」の3ルートで、中でも最も登山の醍醐味が味わえる1番人気のコースが「中登山道」です。ルート上には砂地の登山道、梯子、巨石、ロープ、キレット、トラバースと見どころがたくさんあり、登っていて飽きません。
車でアクセスする場合、一番近い駐車場は登山口から100mほど下った所にある車25台ほどの無料駐車場。ただしハイシーズンは早朝7時には満車になってしまいますので早起き必須!朝ごはんも早目に切り上げ駐車場に着いたのは7:30、ぎりぎり入口付近のスペースに駐車することができました。
御在所ロープウェイの駐車場も利用可能ですが1000円必要です。その場合は駐車場より湯の山温泉街を通りこして湯の山かもしか大橋を渡り、白い岩盤が目を引く三滝川渓谷沿いの舗装道路・国道477号(旧鈴鹿スカイライン)を30分ほど歩くと「中登山道」登山口に辿りつきます。ここから山頂までは、高低差632m、距離2.4km、時間にして2時間から2時間半ほどの登山コースです。
中登山口からスタート直後は、風雨によって花崗岩が浸食された窪みを進みます。たくさん登山者が登っているルートなので踏み跡が窪んでわかりやすいです。
その後4合目までは木々に覆われたガレた登山道を登っていきます。所々に梯子も架けられていますが、岩や木の根が作り出す急勾配の階段を、岩や木の幹を掴みながら全身を使って登ることが多いので、手袋があると便利です。
3合目を過ぎたあたりから少し開けて、ロープウェイの真下をくぐります。ここは少し休憩するのにちょうど良い広場になっています。
中登山道入口から約30分、4合目に到着です。2枚の巨大な岩が負ぶさるようにもたれかかっていることから「負(お)ばれ岩」名がついた名所です。岩と岩の間は人ひとり通れるほどのスペースがあり、ひんやりとした空気が漂っていてクールダウンできます。見る角度によって表情が変わるので、ぐるりと一周して、上から下からと色々な角度から眺めてみてください。
負ばれ岩から10分ほど登ると5合目(標高850m)にあたる綺麗な景色の広がる展望ポイントに着きます。眼下には濃尾平野が広がり、遠くに名古屋駅の高層ビル群を眺めることができ、さらに右手奥には伊勢湾が見えます。中登山道では最も景色がいいところです。
山頂方向も眺められロープウェイの白鉄塔が印象的です。見た感じではまだまだ先は長そうですが、このあたりから尾根道に変わるので案外時間はかかりません。
さらに中登山道の途中で遭遇する奇岩が「地蔵岩」です。御在所岳の中腹にあり、現れた時にはただの巨大な岩?と思うのですが、正面から見ると不思議にも高さ約6mの2つの巨大な岩の間に1辺が1.2mくらいある四角形のサイコロ岩が挟まるようにバランスよく乗っています。「絶対に落ちない」ことで有名な岩で、特に受験シーズンには大人気のパワースポットです。
横から見るとまるで地蔵のような形を作っていて、落ちそうで落ちない岩は、自然の神秘を感じさせてくれます。
頭上に見える山頂や、目の前に広がる鈴鹿山脈の景色を眺めた後、歩みを進め登山口から約1時間、6合目(標高900m)に到着します。ここからルート最大の目玉「キレット」があります。稜線の一部が急激に切れ落ちている場所です。
行く先は眼下!落差100mはあるキレットには鎖場もあり、緊張感もありますが楽しみながら鎖一本を頼りに下りて行きます。下りた先で見上げると、よく下りてきたなと感心してしまいますよ。
7合目(標高990m)からの景色。かもしか広場といわれるところで、ここから今まで登ってきた道を見ると、その険しさに改めて驚きます。国見岳尾根の向こうに多度山が見えますよ。1合登る毎に視界が開けていて、フォトジェニックな場所が多いので是非カメラ持参で登るのがおすすめです。
8合目・標高1100mを越えた辺りで現れるのが、山肌を横伝いに歩く難所です。岩肌に打ち込まれた鎖を辿って山腹にへばり付きながら横歩きで進んでいく箇所で、高所恐怖症の人は思わず尻ごみしてしまいます。この山の斜面を登らずに山腹を横に移動することを「トラバース」といいます。遠くに国見岳、眼下に藤内小屋を見ながら進めば山頂はもうすぐです。
最後の急勾配に取り付けられた鎖場や梯子を登っていると、目の前が突然明るくなり、中登山道の終点です。登りきった後は思わず万歳してしまいました。ここまで約2時間、途中の絶景や奇岩奇石、キレットにトラバースとアドベンチャー満載で、思ったより早く感じるかもしれません。
富士山が見えることから名付けられた御在所岳随一の展望スポットになっているのが富士見岩展望台です。岩場の下は断崖になっているので目の前を遮るものが何もなく、開放感のある絶景が楽しめます。眼下に四日市の街並みが広がり、伊勢湾まで続く奥行きのある景色はまさに絶景です。富士山までは200km離れていますが、気象条件が揃えば見れるそうです。
御在所岳山上は自然公園として整備され、レストランや博物館などがあります。標高1212mの御在所岳の頂上・一等三角点がある場所までは、観光リフト(片道約8分)に乗るか、スキーゲレンデの南、ございしょ自然学校から舗装されている散策路を約20分歩いていけますが帰る時間もあり今日はここまでです。
下山もかなり体力を必要としますのでロープウェイを利用します。御在所岳の奇岩奇石を見ながらの空中散歩は一日のフィナーレにふさわしいものです。ロープウェイ湯の山温泉駅からはタクシーで中道駐車場まで約1100円でした。
四日市といえばご当地グルメ「トンテキ」。豚のロース肉がソースベースのニンニクの効いたたれで味付けされている。大きな肉に切れ目が複数入っているものは、その形からグローブ焼きなどとも呼ばれています。四日市トンテキは50年以上前に中華料理店「来来憲」で誕生したといわれ、人気店の「隆座(たかくら)」でいただきます。
トンテキは、単に肉を焼くいわゆるステーキとはちょっと違って、ソースベースのたれでソテーするように焼き上げる。この時一緒に丸ごとのニンニクも焼くのですが、肉のうまさもさることながら、このニンニクのアクセントにはまってしまいます。併せてキャベツの千切りを添えるのはスタンダードで、栄養バランスも考えられた逸品なのです。切れ目の入った大きな肉の迫力と大きくとも柔らかく焼き上げられた大トンテキはやはり魅力的です。隆座さんでは、肉、にんにく、キャベツ、ごはんの量が選べます。キャベツの量は普通といったのが失敗と感じるくらい山もりのキャベツはなかなかの手強さです。
最後は温泉、片山温泉「アクアイグニス」に浸かって疲れをとります。鈴鹿山脈の名峰・御在所岳の麓近くに湧く片岡温泉。源泉かけ流しの日帰り湯で人気だった施設が複合温泉リゾート施設として生まれ変わりました。東京の「モンサンクレール」のパティシエ・辻口博啓氏と山形の「アルケッチャーノ」のイタリアンシェフ・奥田正行氏というスイーツ界とイタリアン、二人のカリスマシェフがコラボして、“癒し”と“食”をテーマにした総合リゾート「アクアイグニス」が誕生したのです。約5万㎡の敷地には、ラテン語で水「アクア」と炎「イグニス」の対置する二つの融合をイメージしたという斬新な趣で、温泉施設をはじめ、スイーツ「コンフィチュール アッシュ」、石窯パン「マリアージュ ドゥ ファリーヌ」、イタリアン料理「サーラ ビアンキ アル ケッチャーノ」、奥田食堂、カウンター割烹、宿泊棟などがそろい、魅力いっぱい。
温泉施設のある本館へ入ると、開放感たっぷりの吹き抜けのエントランス。旧施設とはまったく異なるが、気になる温泉は、加水・加温なしのかけ流しを継承。浴場にはほのかに硫黄の香りが漂い、主浴槽をはじめ、3つの露天風呂とともに湯床が浅めにつくられているので、湯あたりせずにゆっくり楽しめる。アルカリ性のやわらかな湯はぬめり気もあり、湯上りのスベスベ感に良質の美人湯が感じられます。写真は内風呂のガラス戸を隔ててすぐ隣にある階段状の腰かけ風呂。地面が近く土の香りを感じながら入浴できます。
竹林の中の3つある露天風呂のうち、檜でつくられた東屋風の「桶風呂」の中央からは、泉源から直接引いた湯がこんこんと湧き出ていて、源泉100%のかけ流しの湯をぜいたくに味わえます。
紅葉登山に温泉、グルメと四日市を満喫した一日でした。