「近くてよい山なり」。谷川岳をそう記したのは、戦前の有名な登山家・大島亮吉です。日本百名山に名を連ねる双耳峰の「谷川岳」は、“魔の山”一ノ倉沢の大岩壁のイメージが強いのですが、実は谷川岳ロープウェイに乗れば、子どもから中高年まで比較的容易に登山が楽しめます。群馬県と新潟県の県境、日本の分水嶺にそびえるため、冬は日本でも有数の豪雪地となるなど3000m級の山に特有の厳しい気象の影響を受けるゆえに「谷川岳」は、標高2000m未満(1977m)ながらアルプス的な山容を楽しめるのが魅力です。巨大な岩場や雪渓、氷河地形がある山はそうそうありません。しかも山域の多くは国有林で杉の植樹がされておらず広葉樹が多いので、紅葉とダイナミックな山の風景とのコントラストを楽しめます。紅葉と武骨な岩肌との競演に酔いながら頂上へと続く空中散歩に出かけます。
「谷川岳ロープウェイ」の営業開始時間は朝7時。谷川岳ベースプラザの立体駐車場(700台収容)はそれまで開かないので、混雑を避けるためにも500m下の谷川岳駐車場(無料)に車を停めることにします。まだ陽が昇らない早朝5時にもかかわらず、多くの車が停まっていています。まだロープウェイが動かない陽が昇らないうちからヘッドランプを点けて谷川岳を田尻尾根や西黒尾根から登って目指すであろう人たちが出発していきます。しかしながら私たち夫婦はそんな根性はなく谷川岳山頂への登り口となる天神平へは谷川岳ロープウェーで楽にアクセスするのです。
6時半ごろからベースプラザ前で登山者が並びだし、7時からロープウェイチケットの販売が始まります。往復2060円を払いロープウェイ乗り場・土合口駅(標高74m)に向かいます。
6時半ごろからベースプラザ前で並びだし7時からロープウェーチケットの販売が始まります。往復2060円を払いロープウェー乗り場・土合口駅(標高74m)に向かいます。
渡り廊下で結ばれていますが、ベースプラザとロープウェイ発着場は離れていて、オレンジのラインに沿って進んでいきます。
2006年9月13日に新しくスイス製の新型ロープウェイ「フニテル」と呼ばれる風に強い構造を持ったものに架け替えられ、きれいで大型の搬器が快適に空中散歩させてくれます。フニテルとはフランス語のfuniculaire(鋼索鉄道)とteleferique(架空索道)の造語で、二本のロープ幅がゴンドラより広いロープウェーの愛称です。
土合口駅から天神平駅(標高1319m)までの2400mを15分で結びます。足下には広々とした草地が広がり、窓には雄大な景色が広がるまさに空中散歩気分ですよ。
フニテルを降りたら次は峠リフトです。天神平駅からは木道のトラバース道である天神尾根の山腹を歩くか、リフトを乗り継いで標高1500mの天神峠駅まで一気に行ってしまうかですが、まずはリフトに乗って天神峠を目指します。歩く距離的には変わりませんが、天神峠展望台からの眺望は必見です。帰りはリフトに乗らないので片道410円を払います。
リフトの終点で降りた先が9合目、標高1500mにある展望台からはこれから登るであろう谷川岳の双耳峰や朝日岳、白毛門の峰々と一帯の紅葉が一望できます。楽して天空の絶景を満喫できますね。
展望台を下り、徒歩1分ですごい絶景が待っています。目の前に目指す谷川岳を望む展望のよいスタート地点から山頂までの500mを登る天神尾根ルートのトレッキングスタートです。谷川岳は分水嶺であるため、水が豊富で、ニッコウキスゲ、ミズバショウ、イワカガミなど季節ごとに数々の高山植物が咲きます。利根川水系のおおもとは、この谷川岳から流れています。また山を構成する岩の種類が独特で蛇紋岩と呼ばれる鉱石を多く含んだ岩が高山植物を多く存在させると言われています。蛇紋岩は湿った状態だと滑りやすいので谷川岳を登るときに黒い岩を見つけたら慎重に歩くようにしないといけません。
リフトを使わずに登る天神尾根の合流地点まで下り、約1時間ほどで熊穴沢避難小屋に到着します。小屋までは勾配もゆるく、陽光を透かす黄葉のブナの森もあり、尾根歩きが心地よいです。真冬には6m近い積雪がある谷川岳は夏まで雪が残っているところもあり、それだけ水も豊富ということで太く大きなブナの木が目立ちます。
この辺りは木道整備されていて歩きやすいのですが、ところどころ日陰はぬかるんでいるので足を滑らせないように注意して歩きます。
標高1465mの熊穴沢避難小屋までで森林浴ウォークは終わり、山頂までは低木の間を分け入る道が始まります。ただし谷川温泉に下る“いわお新道”の分岐があるので、入りこまないように注意します。ここから上は日陰や木立がなくなるので日焼け対策はしっかりしておきたい。
すぐに鎖が設置してあるガレ場になり、急登なのでゆっくり注意が必要です。その後は痩せ尾根ですが展望がよく、天狗のトマリ場付近に来ると視界が開け目標の頂上が目の前にはっきりと見えてきます。谷を抜けてくる気持ちのよい涼しい風に癒されながら歩みもすすみます。
「天狗のトマリ場」でひと休みです。ここまで約1時間半登ってきましたが、そのご褒美に眼前に山一面の紅葉が鮮やかに広がり、右手方向には西黒尾根の稜線が綺麗です。山頂側から回り込めば岩の上に立つこともでき、遠く眼下には、水上の温泉街が見えます。
落ち着いたらまた歩きだします。しばらく痩せ尾根が続き、少し急な道になりますが、左手、西側の谷間をのぞくと、関越トンネルの通気口が見え、その一本手前に、かの清水トンネルが通っています。川端康成の『雪国』の冒頭で有名なあのトンネルです。森林限界を突破し、視界が開けると天神のザンゲ岩が見えます。
「天神のザンゲ岩」は登山道から張り出していて、この上に立つと天神尾根を見渡すことができます。ここから肩の小屋までは木の階段が整備されています。
さらに登ると屋根に太陽光パネルを載せた真新しくきれいな山小屋が現れます。天狗のトマリ場から45分、これが「肩の小屋」で、5月から10月の間は有人になり、コーヒーや水400円、オレンジジュース300円などが買えます。水分を補給し、しばし休憩すれば、残すところはここから約15分、谷川岳のトマノ耳山頂部です。
谷川岳はトマノ耳(1963m)、オキノ耳(1977m)と呼ばれる2つのピークを持つ双耳峰で、一般的に頂上と呼ばれているのは「トマノ耳」の方です。まずは「トマノ耳」にアタックします。
頂上部分はかなり狭く、写真を撮る時などはお互い譲りあいたいものです。トマの耳から覗き込めば、マチガ沢と呼ばれる絶壁があり、かなりの高度感があります。
東側は雲が立ちこめ景色は最高という状態ではなかったが、晴れていれば360度のパノラマ絶景が見渡せ、群馬、新潟はもちろん福島、長野までを一望できます。東西南北の日本百名山を中心に説明すると、南に赤城山、東に武尊山、至仏山、燧ヶ岳、会津駒ケ岳が見えるあたりが尾瀬です。北の越後駒ケ岳方面がコシヒカリで有名な南魚沼地域、西には苗場山、南西には温泉で有名な活火山エリアの草津白根山、四阿山、浅間山を見ることができ、これだけの山々を一度に見ることができるのも谷川岳の魅力です。
さらに北のもう一つの耳「オキの耳」を目指します。
尾根からの見える山並みはどこまでも続きます。
尾根の途中、東側の方向を望むとシンセン岩峰が突きだしています。
尾根を歩くこと20分で頂上部です。富士山の浅間菩薩が降臨したとの伝説もあり、別名谷川富士とも呼ばれます。山頂「オキの耳」はまったく天候が悪く残念ながら何も見えずでした。
狭い頂上部の岩場を奥に進むと富士浅間神社奥ノ院があります。
オキの耳そして富士浅間神社奥ノ院から先は一の倉岳(標高1974)へと稜線がのびていきます。このあたりは国境稜線で東が群馬県水上町で西側が新潟県湯沢町になります。
東の群馬側には日本三大岩壁のひとつ「一ノ倉沢」があり、切り立つ岩壁は、訪れた人を圧倒します。上からは怖くて全体を見下ろすことはできませんが、山麓には「一ノ倉沢トレッキングコース」があり、下から見上げることができます。日を改めてまた出かけてみたい。
帰りは来た道を戻っていきます。写真は「オキノ耳」から「トマノ耳」を望んだものです。奥には万太郎山(1954.1)への稜線が伸びています。この尾根をたどる縦走路は万太郎山、仙ノ倉山、平標山へとつながっていて、ここが新潟県と群馬県の県境になっている分水嶺です。
「肩の小屋」まで戻り、同じ道はつまらないと感じ、足と時間に余裕のある人はゴンドラに乗らず西黒尾根コースで4時間の下山という手もあります。
帰りはリフトに乗らないので行きに通った天神峠との分岐を直進します。木道が整備されて歩きやすいトラバース道を天神平まで下っていきます。
天神平では、朝日岳を中心に右に白毛門、左に笠ヶ岳がくっきり見えますよ。
天神平まで出たらあとはゴンドラに乗って戻ります。
疲れた身体を癒すため利根川の最上流に位置し、宝川の渓流沿いの大自然の中に建つ一軒宿「汪泉閣」の日帰り施設「宝川山荘」に向かいます。自慢は4つの野趣あふれる大露天風呂。3つの混浴露天風呂と女性専用の露天風呂1つは計470畳もの広さを誇ります。最も広い「子宝の湯」は約200畳もある混浴露天風呂で、「テルマエ・ロマエⅡ」で上戸彩演じる真美の実家として登場し、真美とルシウスが一緒に入浴した大露天風呂です。湯口の近くはやや熱めながら、離れるとじょじょに温度がぬるめへと変化します。
川の反対に「摩訶の湯」120畳と「般若の湯」50畳があります。混浴なので女性はバスタオルを巻いて入ります。敷地内に4本の源泉があり、毎分1800ℓもの湯量があり、全湯源泉掛け流しです。