門前町に春の贈り物。久遠寺に神仏が枝を伝う聖地のしだれ桜

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幾多の法難を乗り越え、日蓮聖人が晩年の9ヵ年を過ごした身延山。自らが法華経の聖地とした身延山には、日本仏教三大霊山のひとつに数えられ、今なお聖人の教えが深く息づいています。国道52号はかつて甲斐国(山梨県)と駿河国(静岡県)を結ぶ街道のひとつで「甲州往還」「駿州往還」と呼ばれていましたが、富士川流域に沿って通っていたことから「富士川街道」とも呼ばれていました。とりわけ日蓮宗総本山・久遠寺と日蓮の廟所に詣でる日蓮宗の信者の信仰の道でもあることから「身延道」でもあります。そんな富士川沿いには身延山久遠寺をはじめ、桜の名所がたくさんあります。花咲く風景に出会いにでかけます。

「シルクハットを倒さまにして、その帽子の底に、小さい小さい旗を立てた」。太宰治が『新樹の言葉』で甲府を表現した一文ですが、身延町は、そのシルクハットのつばの部分にあたるともいえます。身延町の中心、「身延山久遠寺」は鎌倉時代に、法華経こそが釈迦の本懐であり、「南無妙法蓮華経」を唱えることが第一義であるとして布教を始めた日蓮聖人によって開かれた日蓮宗の総本山。山梨県南部に位置し、身延山、七面山、天子ヶ岳、鷹取山の四つの山と富士川、早川、身延川、波木井川の四つの川に囲まれたこの地は、釈迦が法華経を説いたインドの霊鷲山と同じとし、日蓮聖人自らが聖地としたのです。文永11年(1274)配流地の佐渡から鎌倉へ帰還した聖人は幕府に三度諫言するもかなわず、「三度聞き入られずば山林に交わる」の故事にならい、信者であるこの地の領主・波木井(南部)実長の招きより身延に入山し「大旨はこの山中・心中に叶ひて」とあります。以来晩年の9カ年を過ごし、その生活は隠棲とは無縁で、法華経の読誦と門弟たちの教育に注力しました。

広大な山内には、再建された五重塔をはじめとする堂々たる伽藍、静寂に包まれた聖人の御廟所や御草庵跡などが点在。特にこの時期境内にある大きなしだれ桜が枝いっぱいに淡いピンクの花をつけた様子は、桜の花が地面に垂れ下がるほどで圧巻です。手入れの行き届いた境内は荘厳さを感じさせ、桜と寺の伽藍の構図は、『これぞ日本!』の春の図で風雅な雰囲気の浸れます。寺院を取り囲む山々にも各種の桜が咲き誇り夢のような美しい。霊山や聖地と言われる場所に、古来しだれ桜が多いのは、先祖や仏様、神様は高い所にいて、我々人間の世界まで降りてきてもらうには、つたうものが必要。そのために天から地上まで枝を垂らすしだれ桜を植えたのではないかといいます。

国道52号から身延山を目指して「総門」をくぐります。その前後に立つ二本のしだれ桜が、威厳ある立派な門の傍らで風に揺れ、剛と柔とのコントラストが、趣のある春景色を作り出しています。日蓮上人が身延入山の折り、領主南部実長公とお会いになられた「逢島」の遺跡に立つ門が総門です。二十八世日奠上人が寛文5年(1665)に建立したもので、門には三十六世日潮上人の筆による「開会関」の扁額が掲げられています。この門を入ることによって仏さまの世界に入っていくことを示しています。

一番人気の駐車場は参道商店街にある「門前町中町町営有料駐車場」ですが、この日はフリーマーケットが開催されて使用できず、偶然三門脇の空き地に停めることができたのですが、2番人気の「せいしん駐車場」にいくことをオススメします。裏手に位置し三門からは遠いのですが、斜行エレベーターがあり、一瞬で本堂や五重塔の行けます。お年寄りやちょっと歩くのはという方にはもってこいです。

例年お花見シーズンの3/30から4/3の9:00~16:00は両駐車場まで侵入禁止になりますので、三門まで20分歩くことになりますが「総門有料駐車場」も規制区間外になるので時間帯を問わず車を停めれます。

門前商店街を抜ければ観光協会の目の前に「三門」が、参拝客を歓迎するかのように咲き誇る桜樹の向こうに姿を現します。三門左手、薄桃色のしだれ桜と手前の濃いピンクの八重のしだれ桜が日本三大三門の一つとされる総ケヤキづくりの重厚な門を華麗に彩ります。門空・無相・無願の三つの門をへて悟りに至ることから本堂に至る正面の門を三門といい、寛永19年(1642)に建立されましたが焼失し現在の門は明治40年(1907)に再建されています。

三門をくぐると正面に「菩提梯」が立ちはだかります。右手には「男坂」「女坂」の分岐路があり、男坂は五重塔、本堂前に、女坂は甘露門前にでます。どちらもゆるやかな山道を歩いていく参道です。写真は女坂入口

しかしながら健脚な方は是非、二十六世日暹上人代の寛永9年(1632)に、佐渡ヶ島の住人、仁蔵の発願によって起工、完成した高さ104m、三門と本堂を一文字にむすび、御題目「南無妙法蓮華経」になぞらえ7区画にわかれた287段の石段「菩提梯」を上られることをおすすめします。菩提梯とは悟りに至る階段のことで、この石段を登りきると、涅槃の本堂に至ることから、悟りの喜びが生ずることを意味します。一段一段が高く、下から見上げると天上界まで続いているように見えます。

石段から見上げるかたちで桜越しに五重塔が見えてきます。平成21年(2009)に明治8年(1875)に焼失以来134年ぶりに創建当時の姿で復元建立され、大伽藍も一層優美な物となりました。

明治8年(1875)の大火で境内の建物は焼失したが、奇跡的に広い境内の一角、祖師堂と仏殿の前の二本の桜は生き延びたとのこと。久遠寺境内のしだれ桜は全国しだれ桜10選のひとつです。一本は妙法桜とも呼ばれ、祖師堂の横、久遠寺の総受付である報恩閣の入口前庭に、高さ15.5m、幅11m、幹の太さ3.3mという樹齢400年を経た堂々たる巨木のしだれ桜が、お堂に差す花笠のように美しく参拝客の目を楽しませてくれます。

日蓮聖人の神霊を祀る堂閣「祖師堂」は、日蓮の魂が棲むお堂という意味で「棲神閣」とも称し、江戸時代廃寺になった感応寺のお堂を、明治14年に移築・再建したものです。

開基堂脇にも見事なしだれ桜があります。

仏殿と大客殿の前にも枝を支柱でささえられたしだれ桜があります。それがもう一つのしだれ桜・瓔珞桜です。第26代法主日暹上人のお手植とされ、地面に届きそうなほどに枝を垂らした老大樹は、その重い枝先を何本もの杖に支えられています。周囲に施された柵も根を保護するため。瓔珞とは仏殿の装飾具のことで、しだれ桜の枝や満開時の荘厳な様が瓔珞を思わせます。

身延山ロープウェー駅方面へ歩きます。境内から身延山ロープウェーに乗ると、標高1153mの身延山頂上までは片道7分。山頂には、奥之院思親閣があり、霊境を語る上で重要な地です。日蓮聖人が風雨を厭わず、度々身延山に登っては、山頂から故郷の房州(小湊)を遠望し、両親と恩師の道善房を追慕した場所として知られます。ロープウェーからはピンク色に染まった山肌や境内を見下ろすことができるので、ぜひ足をのばしてほしい。

せいしん駐車場の方から樋沢川を渡り、「西谷」といわれるエリアへゆっくり西谷参道を下って三門に戻るのがいい。西谷は知る人ぞ知るしだれ桜の里。数多くの木々が一斉に咲き誇り西谷がこの時期桜のもっとも綺麗な場所になります。樋沢川沿いの西谷の紅しだれ並木は美しい。

西谷」は麓坊を始め古い宿坊が点在するエリアで、その境内や小道にかなり老齢とおぼしきしだれ桜の古木が何気なく佇んでいたりします。まずは川を渡ってすぐの「本行坊」や

麓坊」の桜を見ます。

戦国武将・武田信玄の祈祷所として建立され、坊名の「武」の文字は武田家に由来する「武井坊」。もともとは東谷地区にあったが、1937年に現在の西谷に移っています。この角を曲がって

「岸之坊」「北之坊

信行道場」の桜を堪能します。

西谷の奥に「いづくにて死に候とも、墓をば身延の沢にせさせ候べく候」という日蓮の遺言に従って建立された御廟所。凛とした雰囲気に包まれ、玉垣に囲まれた所が日蓮聖人の草庵の跡地。

かつて富士川舟運の要地として栄えた南部町にも町を彩る大自然からの贈り物・桜が4月私たちの目を楽しませてくれます。国道52号を南に走り「新船山川橋北詰」を右折し案内板に従って進みます。まずは「原間のイトザクラ」に。旧法眼寺境内の南側に、町内一の一本桜の巨樹が佇んでいます。四方に枝を張った堂々たる迫力のシダレザクラです。細い枝は地面に届くほど垂れさがり、風に揺れる姿はとても優美です。淡い紅色の花をいっぱいに咲かせています。

旧妙善寺にあるエドヒガンザクラの古木が「本郷の千年桜」です。樹齢は600年以上とされ、樹高12m、根回り5.3m、枝張り東西15.5m南北12.4mの巨樹で、毎年白っぽい花をつけるのでシロヒガンとの別名もあります。地上約5mの位置で樹幹の空洞中に根をおろしている点が植物形態学上興味深い。

帰り道がら富士川町にある日本さくらの名所100選に選ばれている「大法師公園」に行こうとしたのだがすでに駐車場は満車ということであきらめてもうひとつ先の南アルプス市にある「高峰山妙了寺」に向かいます。

日蓮総本山「身延山久遠寺」に次ぐ寺で「裏身延」と言われた古刹です。昭和24年(1949)に起った火災のため経堂、宝蔵、総門を残し消失しているものの、参道から続く境内にはソメイヨシノ、エドヒガンザクラ、イトザクラが30本ほどあります。

帰路の途中に是非寄っていただきたいのが富士川流域で一番北の市川三郷町にある「みはらしの丘 みたまの湯」です。世界的に貴重な特異地形である「甲府大三角形構造盆地」の東南端、北東-南西走向の曽根断裂温泉帯から湧出したアルカリ性単純温泉という大地の神様(ガイア)が授けてくれた「地球の体液」と呼ぶにふさわしい最高級の名湯です。露天風呂からの眺望は絶景で、昼間は八ヶ岳連峰から南アルプスまでの大パノラマをゆったりと湯船に浸りながら眺めることができます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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