紀伊半島の南東、吉野熊野国立公園に属する日本百名山「大台ヶ原」は、「近畿の屋根」と称される200万年以上前にできた最高峰を「日出ヶ岳」とする台高山系の南端に位置する標高1600mに広がる台地状の山岳地帯です。熊野灘から吹き上がる湿った風によって生じる雨雲や台風の影響で年間4500㍉以上に達する屋久島と並ぶ日本有数の多雨地帯で、周囲は豪雨に削られた『嵓(くら)』と呼ばれる切り立った断崖や深い谷に囲まれています。「東大台コース」は、登山としては比較的緩やかな起伏が続く台地のてっぺんを歩く初心者向けで見どころの多いコースで、静寂の森の中、絶景を目指して歩きます。
かつては「魔の山」「迷いの山」といわれ、人を寄せ付けなかった険しい秘境・大台ヶ原山。昭和36年(1961)山上台地までドライブウェイが通じ、最高峰の日出ヶ岳にアプローチできます。苔むした倒木が横たわる原生林やミヤコザサの草原、高層湿原などダイナミックで神秘的な大自然が魅力で、ハイキングや登山に適した大自然に囲まれた場所です。
大台ヶ原は東大台と西大台に大別され、山上駐車場を起点に初心者も気軽に登山できる「東大台コース」と、日本で初めて利用調整地区となった原生的な森林が広がる「西大台コース」があります。どちらも9kmほどのコースですが、利用調整地区の西大台は入山には事前申請が必要なので今回は、大台ケ原のメジャースポットが目白押しの「東大台コース」を歩きます。
「東大台コース」は麓から山上まで道が通じているため登山としては比較的緩やかな起伏が続く台地のてっぺんを歩き、案内板なども整備された初心者向けで見どころの多いコースです。標高1695mの日出ヶ岳を主峰に、森林、草原、断崖、瀑布、渓流、湿地が展開する大自然のパノラマゾーンが広がっていて、大蛇嵓からは、眼下は垂直約800mの断崖絶壁の絶景を楽しめる。紅葉する木の種類はブナ、 ミズナラ、シロヤシオ、ナナカマド、オオイタヤメイゲツなどで、例年の見頃は10月中旬~11月上旬とのこと。
近畿日本鉄道から「大台ヶ原 探勝日帰りきっぷ」というお得なきっぷが発売されていますが、近鉄阿倍野橋から特急で大和上市駅まで1時間10分、大和上市駅から奈良交通バスで約2時間かかることを考えると、やはり車で行くのが便利です。大阪市内から阪神高速、近畿道・南阪奈道路と走り国道169号で一路大台ケ原を目指し、大台ケ原ドライブウェイ入口まで2時間の距離です。あとはドライブウェイといいながらクネクネの山道を20Km30分かけて走ると、大台ヶ原駐車場に到着します。時刻は6時すぎだというのに駐車場はほぼ満車です。
まずは「大台ケ原ビジターセンター」横の登山口から、大台ケ原の主峰・日出ヶ岳山頂(1695m)を目指します。ビジターセンターでは大台の自然や文化、森が抱える課題を紹介し、また登山の情報ももらえるので立ち寄ってみます。ただしコース上にはトイレがないので歩き始める前に駐車場のトイレを利用しておきます。
ビジターセンターの横から森の中へと歩き始めます。苔探勝路といいますが笹の多くなった苔むす遊歩道は、鹿の進入を防ぐ柵が設置され、その中を歩きます。最初はなだらかな道を足慣らし気分でのんびり歩きます。コース道は整備されていて、道標や動植物の解説板が設置されているので、自然を楽しみながら快適に歩けます。
分岐から中道の木漏れ日射す静かなトウヒの林の中を鳥のさえずりや水の流れる音に癒されながら、40分ほど平坦な道を進む。やがて現れる石段を上りきる三叉路に突き当り日出ヶ岳鞍部に出る。その奥正面に最初の休憩ポイント・木製のテラスがあります。眺めも素晴らしいのですがさらに眺望を堪能するため、ここから左手、山頂への長く急な木製階段をコツコツとさらに上ること15分で大台ヶ原の最高峰・標高1695mの日出ヶ岳山頂に到着します。
視界を遮るものがない丸太を組んだ山頂展望台からは、雲が間近に感じられ、雲海ごしの大峯連山から台高山系、白く波立つ熊野灘を一望できる360度の大パノラマが楽しめます。天気のよい早朝には、遥か彼方に富士山が見えることもあるといいます。現在7:20
ただし“1年400日雨が降る”といわれている大台ケ原は、海からわずか20kmで急に切り立ち、その斜面を太平洋の湿った空気が吹き上がって急激に冷やされて雲になり、大雨を降らせます。その為、雨や霧の日が多いので、晴天でも霧で見えないこともしばしばといいますので海が見えたら幸運の女神がついています。
シロヤシオの木立の間の歩きやすい緩やかな木の階段を上がり、日出ヶ岳に次いで標高が高い「正木峠」へ。峠から木道を下ると、ミヤコザサに覆われた丘陵一帯に白い立ち枯れの木々が目立ちます。正木峠は、大台ケ原で最も神秘的なムードが漂うエリアです。
大台ケ原のイメージとしてあるこの光景は、昭和34年(1959)の伊勢湾台風の直撃で、かつての美しいトウヒ林の多くの木が倒れ、原生林が明るくなり、それまで地面を覆っていた苔が笹に変わってしまいました。その笹を食べるために集まってきた鹿が、笹だけでなく木の皮もはがして食べてしまい、一面トウヒの立ち枯れた樹木や倒木が広がる荒野になってしまったのです。
ここからトウヒの枯木立にはさまれた木道を下り、ササが押し寄せる土道を歩いて「正木ヶ原」へ。トウヒの枯木立と倒木は、まさしく森の墓場『白骨林』です。大台ヶ原の象徴ともいえるトウヒ林の真中に広がる草原で、緑のじゅうたんを敷きつめたようなミヤコザサと白亜の支柱のような枯木立が織り成す景観はミステリアスに感じます。現在7:45
正木ヶ原から先は平坦な道が続き、尾鷲辻には東屋が立っているので昼食休憩を摂ることもできます。ここで出発点に戻れる中道と合流しているので百名山の雰囲気を満喫したら帰ることもできます。中道は豊かな森の中を通る2kmの平坦な道です。
大台ヶ原の魅力をたっぷり味わいたいので尾鷲辻をさら直進し、緩やかな上り下りを経て苔むした原生林が広がる「牛石ヶ原」へ。ここには、その昔、神武天皇が大台ヶ原を通って吉野に入ったという主張から「神習大台教」の開祖・古川嵩が建立したという神武天皇像や
ミヤコザサの平原に牛鬼という魔物を封じ込めたという伝説の「牛石」があります。牛石を叩くと雨が降るという言い伝えもあります。
ここの草原で弁当を広げているハイカーも多いのですが、さらに尾鷲辻から30分進むと分岐があり、右に進むとシオカラ谷で、大蛇嵓へは左に進み、大きな石がゴロゴロした岩尾根の狭い道を10分ほど下るとコース中最大の見どころ、大台一の絶景ポイント「大蛇嵓」にでます。大蛇嵓はその名の通り、蛇の頭の形をした大岩とそれに連なる大蛇の背のような岩場に乗った感じの立地がスリリングです。嵓の先端に立てば、眼下の谷まで高低差800mの大絶壁は目もくらむばかりで、鎖の柵はあるものの足を滑らせたら落下してしまいそうです。目の前には西大台とその背後に連なる大峯山系の大パノラマが広がっています。現在8:35
大蛇嵓から対岸の断崖の中に、日本でも有数の落差を誇る日本の滝百選「中の滝」が見えます。その隣には「西の滝」も見えますが、遠くて写真ではその迫力が伝わらないのが残念です。
展望を楽しんだら分岐点まで戻り、シオカラ谷へ至る急坂を下ること20分、大自然の清流、シオカラ谷の渓谷美が堪能できる長さ20mほどの「シオカラ谷」のつり橋に出ます。河原に降り、清流に触れて一息つけば川のせせらぎに癒されます。橋の架かる谷の周辺は、シャクナゲの群生地で、5月中旬から下旬が見ごろとのこと。
シオカラ谷からは急な上りが続き、大台ケ原ビジターセンターに戻ります。コースの最後に長い下りと上りが続く難所が待ち構えているて体力が消耗します。体力に不安な方は来た道を尾鷲辻まで戻り、中道のところどころに石畳がある起伏のゆるやかな道でスタート地点に戻ることもできます。一周約9km、休憩を含め約4時間の東大台コースです。現在10:00
さてトレッキングで疲れた体を癒すには温泉にかぎります。このあたりには良い温泉が多く、169号線沿いにあった「湯盛温泉ホテル杉の湯」や12Km程度離れた日帰り温泉の秘湯「小処温泉」等がありますが、以前から行きたいと思っていた「入之波温泉 山鳩湯」に向かうことにしました。国道169号を奈良方面に戻り、大迫ダム沿いに右折、走ること4kmで目的地に到着します。東西に大峰山脈と大台ケ原の台高山脈、北に吉野の山々が囲み、その山あいにひっそりと湧く入之波温泉は、まさに秘湯と呼ぶにふさわしい温泉です。
かつて大峰山脈と台高山脈の狭間、大台ケ原への稜線上に当たる伯母峰峠以北は川上郷、以南は北山郷と呼ばれ、京を追われた敗残者たちが身を寄せて再起を期し、後南朝の滅亡の舞台となった地です。大台ケ原を歩いた帰途の温泉には最高のロケーションです。
「入之波」と書いて「しおのは」と読む難読な地名ですが、温泉としての歴史は古く、開湯はおよそ1300年前、修験道の開祖・役行者が発見したと伝えられ、元禄7年(1694)に彫られた版木には「昔より此塩波に諸病によき塩湯あり」と「御夢想塩湯」の名で記され、湯治客でにぎわっていたといいます。寛永年間(1848~1854)の古地図にも温泉に関する記述がみられる歴史ある温泉です。「山鳩湯」は大迫ダム湖の斜面に張り付くように建つ、ひなびた趣き漂う一軒宿。急な斜面に食堂、休憩室と施設が設けられ、浴場は3階分ほど下った最下部にある。ダム建設で河原にあった泉源は埋没しましたが、それを惜しんで復活させたのが先代です。昭和48年(1973)に日帰り入浴施設として開業し、さらに52年に旅館になりました。
59年にはハトの谷を150mまでボーリングしたところ、源泉温度39.6度、含炭酸重曹泉の良質の湯が毎分500ℓも湧出したのです。屋号は湯が湧いたハトの谷にちなんで「山鳩湯」。神経痛などによく効く炭酸泉が総杉丸太造りの大浴場と巨大なケヤキで作った丸木の露天風呂に注がれていて、湯船からは大迫ダム湖畔のパノラマが広がります。浴場で目を引くのが湯船をコーティングする石化した温泉成分です。析出物、つまり湯の花が層をなして固まったもので、総杉丸太の湯船がまるで鍾乳石でできているかのようです。また淡黄褐色の湯も、いかにも”成分が濃厚ですよ”と言っているようで期待が高まります。脱衣場の効能表には美肌効果のほか「脂肪を乳化させる働きもあり、ダイエット効果も。「湯船で軽く運動すればさらに効果的」との説明書きがある。少しぬるめの39℃の湯は長湯向きで、じんわりと温泉成分が体に染み込んでいくようです。もちろん源泉掛け流しで、茶褐色の湯は和歌山の花山温泉よりはサラリとしていて長野の松代温泉より濃いように感じた。入浴後は肌がなめらかになり、心なしか少しスリムになった気がします。大台ケ原を歩いた後に、ドライブを兼ねて訪れたい関西を代表する秘湯です。
時間も12時近くになり、昼食を求めて移動します。ここからの帰り道はR169号からR370で大宇陀に抜けることが可能であることからミシュランガイドにも掲載された蕎麦・菜食「一如庵」で蕎麦を食べようということになったのですが、今日に限り、それも三連休の初日に臨時休業なのです。
それならとR165から初瀬、桜井と向かう途中で三輪素麺の看板を見たときに、そうだ!蕎麦から素麺だと同じ麺同士であると三輪素麺のお店に寄ることにしました。立ち寄ったのは「池利三輪素麺茶屋千寿亭」で創業1850年の老舗素麺会社【池利】が、細くてコシの強い麺を味わってもらおうと始めた冷やしそうめんから釜揚げまで四季折々の魅力が味わえる素麺専門のレストランで工場の一角に和風の建物がある。
素麺のみのメニューであったがバラエティに富んでいて目移りするも、後輩は天ぷらにデザートも付いた素麺セットの三輪御膳(1620円)を注文し、小生は5種の素麺が楽しめる五品素麺(1620円)を頼むことにした。5つの凝った器に盛られた5種の素麺は彩り鮮やかで、内4品が冷たく、 ①おくら麺(きざみのり、おくら、山芋のトッピング) ②梅麺(しいたけと豆腐に錦糸玉子のトッピング) ③赤米麺(ねぎ、きざみごぼう、きざみ人参) ④トマト麺(パスタ風味にきゅうりのみじん切り、魚の切り身のトッピング) ⑤かぼちゃ麺で白玉餅が添えられている温かいもの。
色鮮やかで見た目も美しく、彦麻呂風に言うなら「素麺の宝石箱や~」というところであろうか、しかし確かに綺麗であったがお腹には物足りなく、女性向きのお店でした。帰りはそのまま西名阪天理ICから乗り西宮到着15時で、充実したドライブになりました。