出羽三山から庄内平野、そして日本海へ。山形県庄内地方は美しい水の循環に育まれた土地です。この土地を象徴するランドスケープである水田から着想を得て生まれたホテルが、2018年9月開業のSHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE。田んぼに浮かび、周囲の山並みや田園風景に溶け込むような佇まい。木の温もりを生かしたシンプルで居心地の良い空間。どこに身を置いても田んぼの気配を感じるようなデザインされたこのホテルで晴耕雨読の時を過ごします。
山形県鶴岡市にあり、JR鶴岡駅からタクシーで10分、車の場合は鶴岡ICから約10分のところに田園風景と調和し、田んぼに浮かぶように建つSUIDEN TERRASSEは、この土地ならではの文脈を紐解き、「空間・本・農・地域・癒」の6つのキーワードで、特別な時間を提供できるよう、木のぬくもりを生かしたシンプルで居心地よい空間に設計されています。設計を手掛けたのは、サスティナビリティを意識した紙管を使った建築で、災害時の復興住宅や静岡県富士山世界遺産センターなどでも知られる建築家 坂 茂氏です。滞在を通して、坂 茂氏による“田んぼに浮かぶホテル”を体感します。
エントランスを通り2F共用棟へ階段を上ると正面がフロントです。特徴的なギザギザ屋根は、折半構造という屋根を蛇腹状に組み合わせて強度を増す構造を採用し、在来工法で必要になる屋根、母屋、そして小屋梁などの構造が不要になる効果があり、可能な限り柱を排除した16.5m×70mの大空間を実現しています。大きな窓から光がたっぷり差し込み、ナチュラルな木材が温かみのある雰囲気を醸しています。
また2階の共用部の大窓に配されている木の筋交いも坂氏ならではの特徴で、木を斜めに組み合わせることで耐震性能を持たせる構造的役割を持たせています。また時間の経過で窓から差し込む光の表情が変わるという共用部の重要なデザイン要素も果たしています。
この2F共用棟、フロントの向かいにはMOON TERRASSEと名付けられたレストランが併設されています。月山を望む空間で、朝食、ランチ、カフェ、ディナーを楽しむことができます。料理の見た目、香り、食感、味わい、そしてスタッフの言葉を通して、山形庄内の春夏秋冬の食体験を提供しています。今回の宿泊プランは1泊朝食付だったので山形庄内の大地の恵みを活かした地産地消の和朝食をいただきました。
ブッフェ形式で提供される11月の和朝食メニューは、庄内地方の在来作物「からとり芋」や「平田赤ねぎ」、秋鮭、庄内砂丘大根など、秋の味覚を使用しています。山形県の秋の定番料理「芋煮」の主役は山形県産の里芋で、作り方は牛肉を利用し醤油ベースで味付けをする“内陸風”芋煮と豚肉を使用し味噌ベースの味付けをする“庄内風”芋煮の2種類があります。こちらでは“内陸風”芋煮を温かいおかずや米どころ庄内のご飯“つや姫”とともにいただきます。山形名物玉こんにゃくに厚焼き玉子、しそ巻き、鶏五目豆、自家製ベビーリーフにマッシュルーム、デザートに鳥海高原ヨーグトと盛だくさん。朝からテンションが上がります。
〆はあごだし汁茶漬けとご飯のお供に郷土料理の塩納豆に柚子茄子の漬物、きゅうりの辛子漬け、自家製岩海苔の佃煮、しば漬等が並びます。
フロントを挟んで奥には右手にSHOP左手にLIBRARYがあります。SHOPでは、お土産探しにぴったりの山形庄内の風土が育んだこだわりの品を紹介していています。海、山、川、平野など豊かな自然に恵まれ、食の宝庫として知られる山形庄内で、この地ならではの「おいしいもの」のセレクトSHOPです。また食品以外に伝統工芸のクラフト作品、器などの日用品といったデザインがおしゃれなものも取り揃えています。
お酒にクラフトビール、お菓子におつまみなどお気に入りを見つけてみてはどうでしょう。購入したビールとおつまみを持って奥のサンセットテラスで寛ぐのも最高です。名前の通り美しい夕日が拝める絶好の場所でビール片手にここで本を読んだり、物思いに耽ったりと最高のチルスポットです。
スイデンテラスには、2つのライブラリーがあり、2000冊の中からピンとくる本を手に取って、晴耕雨読の時を過ごします。誰でも利用できる共用棟ライブラリーには、10のテーマを元に並ぶ約1000冊の本棚があり、その先には、一面に広がる田園風景。開放的で心地よい空間で読書を楽しむことができます。
宿泊者のみが利用できる宿泊棟ライブラリーには、7つのテーマで約1000冊の本が並びます。大浴場とSAKE LOUNGEの近くにあり、湯上りにお酒を楽しみながら、じっくり腰を据えて読書に没頭するのもいいかも。思い思いの時間が過ごせます。机に置かれたです。照明も坂 茂氏の作品で、フランク・ロイド・ライトの名作を紙管を用いて表現したものです。
即効性のある情報というよりは、遅効のある本たちが揃っていて、その関心の芽が滞在中に芽生えてくるのか帰宅してから花を咲かせるのかはわかりません。ただ未知なるものに手を伸ばす好奇心のタネをこの場所で探してみてはどうでしょう。
宿泊棟は共用棟の3ヶ所の入口からガラス張りのブリッジで結ばれたデザインの異なるG棟とH棟、Y棟になります。G棟には、浴室、ライブラリー、ラウンジがあります。
SUPAは全部で3ヵ所。源泉かけ流しの天然温泉と、本格的なフィンランド式サウナ、そしてフィットネスを揃えた設備。地下1200mから汲み上げた鶴岡京田温泉の泉質はナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物泉です。温泉は毎日6:00に男女が入れ替わります。この日は男性が“月白の湯”で、小さな洗い場とサウナそして広々とした露天風呂。「月白」は月の光を思わせる、やや青みがかかった色のことで、洗い場を構成する優しい色味の白壁と夜に浴槽を優しく照らす月明りから命名されました。虫の声や鳥のさえずりを聞きながら季節や時間による景色の変化が楽しめます。
そして“朱鷺色の湯”は大浴場。内湯を囲む淡くやわらかい桃色のタイルから命名された「朱鷺色の湯」は木組みで構成される六角形の天井が特徴的です。天窓からは、日中は優しい光が降り注ぎ、夜間は星空を楽しみながらの入浴ができます。
翌日は“天色の湯”になり、大浴場に露天風呂、サウナもある広々とした浴室。浴槽の壁面を彩る、晴天の日の澄んだ青空を思わせる鮮やかな青色のタイルから「天色の湯」と命名されました。建築の合わせた六角形のデザインが目に留まる天色の湯は、天井の木屋根、天窓、椅子、水風呂、サウナまで六角形で統一されています。
露天風呂では、浴槽と天井の間から周囲の山々や空を望めたり、風呂に浸かると目線の高さに水面が見えたりします。イタリア製のモザイクタイルがオブジェのような空間を彩ります。虫の音や水音に耳を澄ましながらリラックスした寛ぎの時間が過ごせます。
山形庄内は、個性豊かな全18酒蔵を有する日本有数の酒どころです。湯上りには、山形庄内の地酒と県産ワインをセルフで楽しめるお酒のサーバーが置かれたSAKE LOUNGEへ。フロント、レストラン、ショップなどであらかじめプリペイドカードを購入し、ラウンジ空間でゆっくり語りあったり、ライブラリーで本を読んだりと思い思いの時間を過ごします。
向かいには21:00オープンのSAKE BARがある。館内着のまま気軽にお酒を楽しむことができるバーで、日本酒はもちろんのこと希少な庄内産のクラフトウイスキーやワインにスパークリングワイン、地ビールなど、入浴後の渇いた喉を潤してくれる飲み物が用意されています。山形の季節のフルーツを使ったジェラートやジュースもあり、飲めない人や子供も入店可能です。
宿泊棟は羽黒山(H)、月山(G)、湯殿山(Y)と出羽三山の名を冠する3つの客室棟には、シングルからファミリーまで様々な利用シーンに合わせて利用できる客室全119室が配置されています。今回宿泊したのはH棟で共用棟のライブラリー側の入口からガラス張りのブリッジで向かいます。移動するたび、周囲の田園風景も表情を変えます。
中庭の意匠として2016年に発生した熊本地震で倒壊した家屋の瓦が使われています。被災地での災害廃棄物処理の問題解決の一筋となるべく坂氏のアイデアで、中庭ごとに異なるデザインが楽しむことがでます。
客室のベッドや椅子、共用部の至ところに紙管が多用されています。避難所や紙管シャルターとして使うなど被災地支援に取り組んできた坂氏ならではの作品です。写真のツインルームはコンパクトなサイズながら、大きな窓が圧迫感を感じさせません。棚にはエアコンやテレビがすっぽりと収まり、目に入るとつい現実に引き戻されそうな家電も存在感を潜めています。
今回1泊朝食付プランということもあり、夕食は地元料亭「すず音」のデリカテッセン「鈴なり」でお弁当を注文しておきます。「やまがたよくばり弁当」には鈴なりでも使用されている「鮮度」と「質」にこだわった全て山形産の食材を使用。魚は庄内浜の鼠ヶ関、由良、酒田、3つの漁港から揚がった新鮮美味な魚介、お肉は庄内豚や山形牛、野菜は産直の採れたて野菜、山菜はフキ、こごみ、ぜんまいなど自社農園にて栽培した季節の山菜を朝採りで収穫したもの、お米は羽黒産つや姫を使用しています。
次回は田んぼの水が張られたまさしく水田の時期に泊まって水田に浮かぶホテルを実感したいものですものです。