騎馬軍団が闊歩した八ヶ岳山麓を貫く戦国の道・信玄棒道を歩く

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甲斐国(山梨)から信濃国(長野)へまっすぐに突っ切る道は、その形状から、棒道と呼ばれています。戦国の頃、甲斐国を治めていた名将・武田信玄が造ったと伝えられるこの道は「信玄棒道」と呼ばれ、高原の風を全身で感じられる、極上のハイキングコースです。勇猛な甲州騎馬軍団が走り抜けていったいにしえの風景を求めて、八ヶ岳山麓を貫く戦国の道を歩きます。

別荘やリゾートホテルが数多く点在する八ヶ岳山麓は、戦国最強を謳われた武田信玄の足跡が見られる場所です。信玄が諏訪や北信濃を攻略するため、軍用道路として活用したと伝えられているのが、八ヶ岳西麓をほぼまっすぐに貫く「棒道」です。江戸時代の地誌『甲斐国志』には、棒道は上・中・下の3本があったと書かれ、その中で、現在でも往時の面影をとどめているのが、上の棒道と呼ばれているもので信玄によって造られたものです。逸見路の穴山(山梨県韮崎市)から分れて、若神子新町(北杜市須玉町)、渋沢、大八田、白井沢、小荒間(以上は北杜市長坂町)、小淵沢(北杜市小淵沢町)を経て、信濃国立沢(長野県富士見町)に入る。さらに大門峠を越え、長野盆地に続いていました。別名大門嶺口

この地域の約5kmの棒道沿いには「西国三十三所」「坂東三十三所」の霊場を模して、旅人への道案内と霊場信仰を兼ね江戸時代末期に1丁(109m)おきに37体ほどの石仏(観音像)が安置されています。このおかげで棒道の一部が残され、観音様は今も豊かな表情を湛えて佇んでいます。写真は坂東1番十一面観音立像

ハイキングの出発地点のJR小海線の甲斐小泉駅周辺が小荒間と呼ばれる場所で、『甲陽軍艦』に天文9年(1540)2月、弱冠20歳の武田信玄が信濃の武将、村上義清方の清野、高梨、井上、隅田の4侍大将率いる総勢2500余の軍勢と戦った小荒間古戦場跡です。そこから小淵沢までの山中に、信玄の時代を彷彿させる棒道がのこされています。地図でみると、等高線に沿うように平坦に道がつけられ、将兵や物資に移動が容易にできるようようになっています。

高原列車としてJRの鉄道最高地点を通る小海線。車窓にレタスやキャベツなどの野菜畑が広がる高原列車を楽しんでいると、2両編成のディーゼルカーは甲斐小泉駅9時1分到着。

甲斐小泉駅(標高1044m)は小さな無人駅ですが、駅前には現代日本画を代表する平山郁夫シルクロード美術館があります。左手に美術館を巻くように道なりに右手へカーブして信玄棒道ウォークに出発します。ゴールのJR小淵沢駅(標高886m)まで約9kmのコースです。

小海線の線路に沿って、小淵沢方面に歩くと「三分一湧水」があります。一日に8500トンの湧水量があり、、一年を通じて水温が11℃に保たれている環境省の名水百選に選ばれた清らかな水が上流から流れてきています。ここでは昔、周辺の3つの村で水争いが起きたため、三角形の支柱を埋め込み、流れが均等に行き渡るように工夫したもので、武田信玄の発案とされ、三分一と名付けられたといわれます。湧水でしばし英気を養い線路沿いの道に戻ります。

高川を渡って、案内板に従いJR小海線の鉄橋をくぐると緩やかな上りになる。すぐに道は二股となり、角に小荒間口留番所跡が現れます。天文年間(1532~55)に信州大門峠へ通じる棒道(大門嶺口)に設置されたものといわれます。江戸時代も続き、国境で旅人や物資の移動を監視する口留番所として甲斐国に25カ所置かれたものの一つで、門(高さ約3.6m)、矢来(門から左右に約10m)、茅葺きの番所小屋(約5.4m×3.6m)などからなっていました。今では苔むした祠や石仏だけが、唯一、当時を偲ばせてくれます。

なおも単調な舗装道路を上ると、西国27番如意輪観音坐像の石仏とともに棒道の説明板が現れます。如意輪観音は一面六臂の坐像が多く、女性のような容姿が多く見られる。六本の手によって六道輪廻からの救済を図るといわれ、思いのままに願い事を叶えてくれる宝珠と、敵を打ち砕く輪宝をもった観音様です。

左手になおも単調な舗装路を歩き、棒道橋を渡ると、舗装道路が終わり、踏み固められた砂利道に。行く手に雑木林が広がってきて、ここから道は細くなり、木漏れ日の中へと続きます。林のなかに西国29番馬頭観音坐像が佇んでいます。馬頭観音は頭上に馬頭をいただくところから呼ばれていますが、牙をむき出した忿怒相になっているために馬頭明王と称されます。一切の障害を打ち砕き、無明の世界にあって諸々の悪を断つとされています。

女取湧水への分岐があり西国33番十一面観音立像の石仏が佇んでいます。女取湧水チャレンジコースとして約4kmの登山道(標高1170m)になります。

大きな石の上に坂東2番十一面観音立像のところから沢を渡る小さな枕木の橋があり、林に入ってからの細い棒道は、軽いアップダウンを繰り返す程度の、じつに快適な道です。棒道を歩いていると、道の脇に石の観音像が点々と現れ、けもの道のような所を歩いていると、じつに勇気づけられる存在です。十一面観音は中心・北・北東・東・南東・南・南西・西・北西・上方・下方の方角に常に目を向けて衆生を救うとされる菩薩です。正面三面は慈悲相・左三面は瞋怒相・右三面は牙を出す相・後一面は暴悪大笑相・頂上一面は如来相です。

途中砂防ダムが見える細い道を抜けますが、そこにはなぜか野生化したフサフジウツギ(房藤空木)/ブッドレアが藤色の花をたくさん咲かせ、英名のバタフライツリーの名のごとく、蝶を呼ぶ木で甘い香りを漂わせていました。

坂東7番聖観世音文字塔のところで女取湧水チャレンジコースと合流します。千手観音や十一面観音など変化観音が制作されるようになり、それまでの観音を正統的観音という意味で聖観音(正観音)と呼びました。聖観音は一面二臂のみです。

さらに進むと幅はゆうに10mはあろうかという左右の林が大きく切り開かれた場所に出ます。起伏にとんで草の上に、大きな岩がゴロゴロしていますが、土の柔らかい感触が心地よく、さながら川の上を歩いているようです。そこは、防火帯として拡幅された場所で、棒道の踏み跡自体は相変わらず細い。

小さな木の橋を渡ると道幅がやや狭くなり、両側に笹が繁った道になり、左手に小淵沢カントリークラブのフェンスに興ざめしながら沿って歩く。坂東16番千手観音坐像あたりは馬の散策コースでもあります。正式名は千手千眼観世音菩薩。手にはそれぞれに目が付いていて、煩悩に迷える衆生を導くことをあらわしています。観音の中の王という意味で蓮華王ともいわれます。

火の見櫓跡と棒道案内板とがある小淵沢の市街地へ下る車道と交差します。

県道11号線を右手に側道を歩き、正面に甲斐駒ヶ岳といった南アルプスを見ながら道の駅こぶちさわに到着です。

ちょうど時間も11時半ということで道の駅にあるBraceria ROTONDOへ。サラダ付ハンバーグ150gランチをいただきます。

道の駅こぶちさわからJR小淵沢駅まであと約3.5km、30分ほどでもうひと踏ん張りでゴールです。

 

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