大迫力!大谷石の絶景地下迷宮と宇都宮餃子に舌づつみ

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石なのに温かみがあり、軽く、加工しやすく、耐火性に優れる、そんな性質をもつ大谷石は、旧帝国ホテル本館(ライト館)をはじめ古くから建築材料として使われてきました。日光街道では最大規模の宿場町であった宇都宮の町の歴史は、平安時代の城下町・門前町に始まります。一方郊外で産出される凝灰岩・大谷石は古墳時代にはすでに建材としての利用が確認されるほど古くからの石の里で、町にも大谷石を使った建物が約9000棟もあり、温かみのある表情で迎えてくれます。有名なアメリカの建築家フランク・ロイド・ライトがこよなく愛した大谷石の産地は、平成30年(2018)5月「地下迷宮の秘密を探る旅~大谷石文化が息づくまち宇都宮」というストーリーで「日本遺産」に認定されました。最近では、宇都宮にある昔ながらの蔵を改装したオシャレな大谷石カフェが増えています。そんな宇都宮を定番の宇都宮餃子とともに歴史・文化めぐりの散策を楽しむことにしました。

まずは何をおいても採掘場跡の地下空間が印象的な大谷石の里は外せないことから朝一番で向かいます。大谷石の三首現場である大谷地区を訪れると、周辺は隆起した凝灰岩の奇岩がつらなります。

大正8年(1919)から昭和61年(1986)まで採掘が行われていた大谷石の地下採掘場跡「カネイリヤマ採石場跡地」を公開したのが「大谷資料館」です。

入口で入館料800円を払い、地下30mへ階段を下りていきます。

地下空間に入ると「でかい!」とまず声を発してしまいます。それぐらい天井は高く、奥行きは果てしない、自分が小人になったかのような錯覚を覚える地下30mの深さに広がる石だけの世界です。興奮がひと段落すると今度は冷気が身体をつつみます。坑内の気温は通年8度前後なので、夏でも羽織るものが必要です。吐く息が白くなるほど寒いのに、不思議な温かみが感じられ地球の胎内に入り込んだようです。

ここは、奈良時代から建築素材として使われてきた大谷石の地下採掘場跡。大谷町付近に分布していることからその名が付けられた大谷石は、柔らかく加工がしやすいため、重要な建造物にも用いられてきました。一般の人々の目に触れることなく「未知なる空間」と呼ばれた最大の地下採掘場跡は、70年間でその体積は、広さ約2万㎡(140m×150m)、深さは平均30mあり、野球場が一つすっぽりと入ってしまうほどの大きさです。崩落しないように岩盤の一部を柱状に残しながら掘削すた跡地は古代ローマの巨大な地下神殿のような景観で、ピラミッドの内部や映画『インディ・ジョーンズ』の世界を思わせる唯一無二の空間、地下にこんな絶景が広がっているなんて驚きです。

壁には手掘り時代のツルハシの跡が残りずっしりと年輪の重さを感じさせます。機械化が進んだ時代の大型チェーンソーなど産業として発展していく過程での採石の道具も随所に展示されています。

奥へと続く通路の先、大谷石を掘り出して造られた壮大の空間は、厳かなBGMが流れ、カラフルにライトアップされていて、まさしく人工の絶景に圧倒されます。

石切り跡の隙間から覗いた地下神殿

70年代に機械化されるまでは人力が頼りで壁面に波打ち模様が刻まれた無数のくさび痕は当時の名残です。大谷石は「六十石」といって長さ90cm×幅30cm×高さ18cmの大きさに切り出していて岩盤から1本切り出すためにくさびなどを約4000回打ち込む必要があったといいます。算出した大谷石は推定1千万本といわれ、来る日も来る日も薄暗い地下空間で多くの職人がハンマーとツルハシを振るっている様子を想像すると身震いします。

天井に掘られた明かり取り。昔の人間が掘ったとは思えない造形です。

結婚式等イベント時のみ公開される教会ゾーン。巨大な地下空間に岩の切れ間から太陽の光が差し込んで幻想的な雰囲気を作り出す様は、石の造形とあいまって絵画のような美しさです。

展示会場としても使うアーティストも多く、展示期間が終わったあとも多くのオブジェが残されています。

コンサートやBZ等のプロモーションビデオ撮影の舞台としても利用されています。

ここでは映画「るろうに剣心 京都大火編」の撮影が行われました。

ひとめぐりする頃には心が浄化されたような気分になり、静寂の地下空間から地上に出てみると、空がまぶしくて夢から覚めたような気分になります。

資料館を出て御止山の岩波が連なる景観を楽しめる「大谷景観公園」や切り立った大谷石の崖を見ながら大谷寺に向かいます。御止山は姿川に沿った奇岩群の南端付近に位置し、自然の大谷奇岩群と赤松の織り成す風光明媚な景勝が「陸の松島」と称賛され国の名勝に指定され、大谷寺が所有しています。江戸時代、日光輪王寺宮様の御用山で秋になると松茸が採れたため、一般の人々の入山が禁止されていた事が名前の由来になっています。公園は御止山の西端にあたり姿川左岸の約300mに連なる自然の岸壁で、奇岩の高さと広がりを展望することができます。

背後に聳える御止山の崖下、天然の洞窟にすっぽりと包まれた不思議なお寺が、日本遺産の構成要素にもなっている坂東三十三観音霊場19番札所「大谷寺」です。弘仁元年(810)、凝灰岩の岩壁に直接弘法大師が千手観音菩薩立像を刻んで寺を開いたとされます。この高さ丈六(約4.5m)の本尊である大谷観音は岩壁に彫ってから粘土で形を整え、下地に漆を塗り、金箔で覆われて彩色を施してあったとのこと。温かみと力強さが伝わる黄金に輝く御仏はさぞや人々を魅了したに違いありません。

大谷石は海底火山の爆発で噴出した軽石流が堆積し、何百万年もかけて岩石になったもので地質学的には凝灰岩に分類されます。大谷寺正面には、この凝灰岩の崖が自然の力で削られて雨のあたらない窪みができています。古の人々はそこに仏像を彫ったのです。薬師三尊像など平安時代から鎌倉時代に刻まれた全部で10体の磨崖仏があり、荘厳な雰囲気が漂います。

本堂の大谷観音(千手観音)と脇堂の釈迦三尊、薬師三尊、阿弥陀三尊の合計10体は「大谷磨崖仏」と呼ばれ、重要文化財に指定され西の臼杵磨崖仏に対し東の磨崖仏として知られています。近年の研究で大谷観音はバーミヤン石仏との共通点が見られることから実際はアフガニスタンの僧侶が彫刻した日本のシルクロードと考えられています。※撮影禁止

江戸時代初期、徳川家康の長女・亀姫は、父親が日光に祀られたところから、江戸と日光の中継所として復興され、当時の住職・伝海僧正による中興を援助しました。歴代日光輪王寺の宮様の休憩所・宿泊所として利用されたことから寺紋は「菊の紋」と「葵の紋」があります。

また境内には池のほとりに赤い弁天堂があり、弁財天が祀られています。その隣の白へびには伝説があります。この池に棲み毒をまいて人々を困らせていた毒蛇を弘法大師が秘法をもって退治したといいます。その後毒蛇は心を入れ替え白へびとなって弁財天にお仕えしています。

大谷寺から歩いて1、2分の大谷石採石場跡の壁面に太平洋戦争の戦没者の供養と世界平和を祈って「平和観音」という高さ約27mの大観音像が彫られています。昭和23年(1948)から6年の歳月をかけて昭和29年(1954)に完成しました。

さて大谷探訪の後はやっぱり外せない宇都宮餃子の名店めぐりとばかり宇都宮を目指します。途中「岩原神社」という朽ち果てそうな本殿背後の大谷石の奇岩が御神体で「ダルマ岩」と呼ばれています。

宇都宮の町を歩いていると、特産の大谷石を使った蔵や建造物がそこかしこに残っているのに気がつきます。商業・公共施設など、より身近なところでも大谷石の建造物に触れることができます。大谷街道沿いには昭和4年(1929)、当時の城山村の中心部に建設された「旧大谷公会堂」があります。設計は栃木県で初めて設計事務所を開いた更田時蔵で地元の軍人会と地域の人々が資金や石を出し合い石工も協力して完成させたといいます。屋根の構造は西洋式の洋小屋組で正面の4本の付け柱の装飾などにライト建築の影響が見てとれる当時としてはモダンな公会堂でした。

アメリカの建築家フィランク・ロイド・ライトか「旧帝国ホテル ライト館」を建てる際、大谷石を採用しましたが軟石の大谷石では高層や大空間の建物は造れないことから、鉄筋コンクリート造で、コンクリートを流し込む型枠に大谷石を貼る工法を用い大正12年(1923)に竣工しました。昭和の初めには宇都宮でも大規模建築に同じ工法が使われるようになり、そのひとつが昭和7年(1932)に完成した「カトリック松ヶ峰教会」です。現存する大谷石建造物では最大級のものでスイス人建築家のヒンデルが設計し、西洋中世ロマネスク様式の教会を宇都宮に出現させました。2つの尖塔が聳え、連続するアーチや随所を飾るレリーフが美しい4層の教会はビルが建ち並ぶ市街地で異彩を放っています。

聖堂の内部はロマネスク様式の特徴のひとつ、半円形のアーチで、アーチを支える柱が鉄筋コンクリート造・大谷石貼りです。大谷石の吸音効果により、堂内の音響は抜群で賛美歌の歌声も美しく響きます。柱や壁に加えて祭壇とその傍らの聖書朗読台も大谷石製です。

柱や壁に加えて祭壇とその傍らの聖書朗読台も大谷石製です。祭壇の左手には聖マリア誕生のイコン。西洋中世の伝統にのっとり、聖地エルサレムの方向に祭壇が配置されています。

お腹も空き宇都宮餃子を食べにMEGAドン・キホーテ ラパーク宇都宮店地下1階にある「来らっせ」に行く。ここでは宇都宮みんみんを始め有名店の餃子をどの店の席に着席しても注文して食べることができるのです。

最後は個人の小さな大谷石の石蔵を改装したカフェ「cafe SAVOIA s-21]でコーヒーをいただき寛いでこの大谷石めぐりを締めくくります。アーチ形の入口、2階の窓回りの装飾からは石工や施主のこだわりがうかがえます。1階のカウンター席、2階の客席にはジャズが流れ、ゆったりとした時間が過ごせます。店名は映画「紅の豚」に登場する飛行機の名からとっています。

 

 

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