信州南木曽は中山道の宿場が何より有名ですが、木曽山脈と御嶽山麓の雄大な自然が息づく渓谷には全国的にもトップクラスの美滝が点在します。なかでも日本の滝百選に認定されている「田立の滝」は、岐阜県境に近い山あいから流れ出す木曽川水系の大滝川上流に位置し、木曽ヒノキの原生林の幽谷に大小さまざまな滝や淵が次々に現る迫力の滝群の総称です。手つかずの天然ヒノキやサワラに覆われた渓谷に沿って遊歩道が整備され、独特の渓谷美をつくっている水の造形に会いに出かけます。
田立の滝へは、国道19号から田立の交差点を曲がり集落の中を縫うように走って行きます。田立オートキャンプ場を過ぎ、さらに車で10分程行った突き当りが粒栗駐車場(無料)。20台程停められ、右手奥の探勝路入口横にはトイレがあります。途中にトイレは最奥の丸淵までありません。また自動販売機もないので、飲料水は事前に用意しておきます。用意万端整えて、設置されている熊よけの鐘を鳴らして出発します。あと、忘れないように環境整備協力金200円を置いていきます。
駐車場の標高が約800m、遊歩道を上流に向かって歩いていくのですが、最初のらせん滝まで約50分、標高1200mの主瀑「天河滝」までもう20分、さらに最奥の丸淵まで40分の道のりになります。その間、急な山道が続いたり、ハシゴ階段があったりするので、それなりの装備でのぞみたいものです。
粒栗駐車場への途中、「うるう滝」への案内表示が現れるので先に立ち寄ってみるのもいいですよ。車を停めれば50m程先に、はすに構えた花崗岩壁を水飛沫が落下しています。落差32mの間、6、7回も蛇行を繰り返す姿は思わず見とれてしまいます。
入口から最初のらせん滝までの約50分は森林散策の趣があります。木曽ヒノキ、サワラ、コウヤマキ、などの大径木を間近に見ながら歩いていきます。粒栗駐車場から、すぐに川が八つの瀬に形を変えて落下することからきている「八ヶ瀬」ではじめて大滝川に出会います。この付近一帯は粒栗渓谷に属しています。
さらに進むと駐車場から370m、「さわら大師」の案内板があります。川側から見ると巨石の上に五本のサワラがたっているのがわかります。石の上にも三百年とあり、石の上にも三年のダルマ大師もびっくりするであろうと書かれています。
ここからしばらくユニークな名前を付けられた巨木を楽しみに森林浴をしながら遊歩道を歩いていきます。駐車場から680m、周囲にモミとツガの大木を見ることができます。葉の先が二つに分かれ、とがっているほうがモミで、付けられた名前が「もみたろう」。まっすぐに天に向かって伸びています。
210m進むとケヤキの「けやきち君」には倒木が挟まっています。建築材、家具材として幅広く利用される馴染み深いけやきの木です。
さらに160m歩くと登山道沿いに二本目の「さわら大師」が直立しています。樹齢350年以上と推定されるサワラの大木です。
さらに360mで写真の「ひのきイチロー」が現れます。木曽地域に自生する天然のひのきを木曽ヒノキと呼び、登山道脇の触れるものの中で一番太く樹齢400年前後と推定されています。
さらに210m進むと、コウヤマキの「まきチャン」。
最後は駐車場から1780mに立つ、ツガの木の「つがえもん」があらわれます。ここまで滝と出会えませんが、凝った名前で飽きさせません。
「まきチャン」と「つがえもん」の途中、駐車場から約1.5kmほどのところで、木々のすき間からポッカリと顔をのぞかせる断崖絶壁の不動岩を眺めることができます。ベンチもあり、ちょっと小休止できます。不動岩上の展望台からは、越百山、恵那山などの山並みや中津川市内方面が眺望できますが、登山道は狭く急峻なので時間のある方や健脚向きです。
「つがえもん」から先は岩の周囲を半周するかのように桟が敷かれ、いよいよ滝ゾーンになります。すぐに最初の「螺旋滝」に下りていく分岐にでます。田立の滝のほとんどは遊歩道沿いにあるのですが、この螺旋滝だけが遊歩道からそれています。約100m、5分程下ったところにあるためあまり見に行くハイカーはいないのですが実は必見です。落差は約25m、滝口から落ちた水が中ほどの岩にぶつかり、ねじれながら滝壺へ落ちていきます。滝壺までは近寄れませんが、霧のような水飛沫が心地よいです。
もとの遊歩道に戻り、ここから田立の滝の主瀑「天河滝」を目指します。足場もしっかりと整備されていて、「天河滝」までおよそ20分、滝と清流と森林が織りなす清涼感は格別です。途中、棚状の岩壁から清流が軽やかに流れ落ちる「洗心滝」を見て、天河滝の一段下手にあたる落差30mほどの写真の「霧ヶ滝」に到着します。
古城の遺跡を思わせるごつごつした階段状の大岩壁を水が踊るように落ち、水飛沫が大乱舞しています。ここまで登ってきた疲れを癒してくれるような涼しい風が流れ、とても爽やかですよ。撮影ポイントですが平らな足場が少なく、注意が必要です。見上げると一段上に天河滝のようなものが見えますよ。
いよいよここから天河滝まで220m上って行きます。階段がしっかりと整備され、道中にはたびたび、木々の合間から霧ヶ滝の上部を眺めることができて楽しませてくれます。
標高1200mほどの場所に突然落差40m、幅13mの「天河滝」の一枚岩が現れます。自然のダムを思わせる切立った巨大な花崗岩のてっぺんから大滝川が崩れるように豪快に流れ落ちる様はまさに圧巻です。今はこの名勝の地に誰でも入れますが、明治後期まで里人たちがこの天河滝を神聖視し、雨乞いの神事を奉る目的以外は立ち入りが禁じられていたというのも頷けます。この辺りは平らな場所も多くゆったりと撮影できます。
さらに「不動滝」を目指して280m上っていきます。階段も整備され、天河滝の絶壁を横から見ながら上っていくと、天河吊橋に出ます。橋の上から天河滝の天辺を眺めることができます。
すぐに不動橋が大滝川に架かり、正面に「不動滝」を見ることができ、渓谷風情が一層そそられます。上部は幅広に流れ、一度平な岩肌を広がり、さらに下段に数条に分かれて落ちていきます。ここから「不動滝」を見ながら滝上までさらに上っていきます。
千鳥棧橋と名付けられたこの九十九折の階段は、壁面にへばりつくように設けられています。その木組みの階段の幅は狭く、隙間があるので、足元に気を付けながら歩を進めます。最上部では不動滝の真上(滝口)から下をのぞくこともできます。スリル満点ですが、やっぱり滝は全体を見たほうがいいです。
不動滝の滝上から上流部では清流が緩やかな傾斜を流れ落ちていきます。このあたりは、雲上橋までなだらかな「龍ヶ瀬」が広がり、休憩やお弁当を広げるのに最適の場所です。
雲上橋で道は二手に分かれます。直進するか、橋を渡るかになります。どちらを選んでも一周してここに戻ってこれます。橋を渡って右手に行けば、途中で眺めた不動岩展望台に片道300m、約20分かけて上れます。
もう少し滝めぐりがしたいので直進し、上流に向かいます。「丸渕」までの間に、雲上橋の真下に落差5mほどの比較的小さな「鶴翼滝」
さらに幾筋もの流れからなる「そうめん滝」
そして「箱淵」と大小様々な形の滝や淵が続き見事な渓谷美をなしています。「箱淵」は段差6mほどの段瀑ですが、硬い岩がまるで人工的に掘削されたようにキュービック状に浸食された不思議な立体迷路のような空間を通り抜けていきます。「箱淵」を見て雲上橋まで戻ります。所要時館往復約20分です。
時間に余裕のある方、体力に自信のある方以外はここで来た道を粒栗駐車場まで戻ることをおすすめします。駐車場から雲上橋まで滝また滝と、岩肌を打付ける水飛沫が作りだすマイナスイオンを浴びて、清々しく感じて歩ける1時間40分です。