今やワイナリー(醸造所)はほぼ全都道府県に広がり、日本各地でブドウ栽培とワイン造りが行われ。それぞれの土地で質の高い地酒ならぬ地ワインが生み出されています。周辺観光と合わせて地方のワイナリーを巡るワインツーリズムも脚光を浴びています。東北地方もその一つで、デラウエアの産地としても有名な山形県は、江戸時代に山梨から持ち込まれたち伝わる甲州ブドウをはじめ、ワイン用ブドウ栽培の歴史も古く、地元のブドウで醸すワイン造りが盛んな“果樹王国”です。山形が生んだ歌人・結城哀草果は「置賜は国のまほろば菜種咲き、若葉茂りて雪山見ゆ」と詠み、豊かな自然と歴史に育まれた山形県南部に位置する置賜地域は県内で最も歴史あるワインの地域であり、さまざまな見どころが点在しています。神社や公園めぐりを楽しみながら自分好みの1本を求めて、山形のワイナリーを巡る旅で出かけます。
赤湯温泉がある南陽市は、山形県のぶどう発祥の地として知られ、県内で最も歴史あるワインのまちです。寒暖差のある気候、日照時間の長さ、水はけのよい土壌などぶどう栽培に適した条件が揃っているため、糖度の高い良質なぶどうが育ちます。赤湯のブドウ主産地である十分一山、名子山、大沢山が囲むようにしている白竜湖は太古の時代にはカルデラ湖であり、海底火山の熱水の影響により、これらの山の凝灰岩の中に金、銀、銅、ニッケル、鉄などの鉱物が鉱脈として残り、各種鉱物はミネラルとして水に溶け込みブドウの栄養となります。江戸時代にはには金採掘が盛んになり、金山堀師たちが持ち込んだのが甲州ブドウです。
山並みと田畑がおりなす穏やかな風景の中に、白く光るものが山の斜面の所々を覆っているのが見えます。それは雪ではなく、ビニールがかけられたぶどう畑で、赤湯は、雨よけのためのビニールをかけるブドウ農家が多い地域で、急斜面にこれだけ多くのビニールがかたまって見られる景観は日本でもこの一帯だけだと思われます。雨にあたらないのでブドウが病気になりにくく、無農薬も可能にする環境にやさしい栽培を促す効果もあるといいます。南陽市には、そのおいしいぶどうに魅せられたワイナリーが集結しています。小さなワイナリーばかりですが、山形県最大のワイン生産地です。
庄内平野の北端、赤湯温泉の街中にある「酒井ワイナリー」は、温泉街に馴染んだ建物で、レトロな看板と赤い屋根に絡まるツタの緑が目を引きます。創業明治25年(1892)、米沢牛を全国に広めた英国人チャールズ・ヘンリー・ダラスがこの和牛に合うワインを求めているのを知った初代がワイン造りを思いたち、鳥上坂の山の斜面にブドウ畑を開墾したのが始まりの東北最古のワイナリーです。鳥坂上は、南は米沢、北は上山方向へ水が流れる分水嶺であり、積雪量もここを境に北へいくほど少なくなります。畑は、平野に向かって南を向いた山々の斜面に点在し、自車畑はおよそ7haで、歴史的経緯もあって、酒井家の自社畑で造られるワインは赤が多い。ワイナリーとしては中規模です。
小さなショップではカウンターで無料の試飲ができ、グラスワインを買って窓辺のテーブル席でおつまみと共に楽しんでもいい。無濾過のため余すところなくブドウのエキスを抽出したような独特のうまみを漢字つワインは、どれも優しく滋味深い味わいで、だしのうようなうまみがしっかりと感じられる。鳥坂上マスカットベーリーAブラッククイーンは赤湯の自社畑で収穫した2種類のブドウを混醸し、樽で熟成したワインで、マスカットベーリーAの比率が高い。キラキラとした果実味があり、適度な酸味と優しいタンニンのバランスが良く、さらりとした飲みやすさが、甘辛い芋煮にあいそう。
「小姫」とはデラウエアの地元での昔の呼び名で、早摘みのデラウエアは優しくほのかな甘みがあり、香りは華やかです。甘口、辛口、〇【あわ】とあります。辛口は野生酵母で発酵するため発酵期間はおのずと長くなり、自然に落ち着くのを待って瓶詰されています。デラウエアの芳醇な果実味とキリリとした酸味が楽しめます。〇【あわ】は無濾過の為、デラウェアの果実感をダイレクトに感じられる微発泡のスパークリングです。
同じ赤湯温泉の街中にあるのが佐藤ぶどう酒。昭和15年(1940)創業の地元で人気のワイナリーで生産したワインの90%以上が山形県内で消費されています。定番の「金溪ワイン」シリーズは、クセがなく飲みやすいおいしさ。金溪ワイン赤は、マスカットベーリーAで醸造、軽やかな酸味でタンニンが少なく、果実味に優れた定番の赤ワインです。
山形県産デラウエアを主体に低温発酵・低温熟成で仕上げた、果実味あふれる華やかな香りの辛口スパークリングは、“ジャパン・ワイン・チャレンジ受賞”のワインで。2019年6月G20大阪サミットで使用されています。
国道399号沿い、赤湯の街中にあるのが大浦葡萄酒です。創業は昭和14年(1939)の小さなワイナリーながらバラエティに富んだラインナップの驚かされます。赤湯産デラウエアを使ったフルーティーなワインから、樽熟成による深みのある赤ワイン、極甘口の上品なデザートワイン、スッキリ飲みやすいスパークリングワイン、そして“フルーツ王国山形”の果実を使ったサクランボのワイン、リンゴのシードルなど、その数30種以上。
スペースを広げてリニューアルした「Wine Shop 312」では、ゆったりと好みのワインを選ぶことができ楽しめます。試飲にはありませんでしたが「アイススウィートスチューベン」は、日本ワインコンクール2023年にて金賞受賞。芳香と甘い味覚で親しまれている黒ぶどう“スチューベン”の甘い果汁を、更に糖度を上げるため凍結させて水分を除去し、とろりとした蜜のような果汁を得て発酵させています。スチューベン独特の華やかな芳香と優雅な甘味が特徴のデザートワインに仕上がっています。
この他赤湯には国道13号の鳥上坂方面に南陽市のおいしいぶどうに魅せられたワイナリー、赤湯最古の観光ぶどう園「紫金園」を経営している大正10年(1921)創業の須藤ぶどう酒工場・ナチュラルワイン界で世界的に有名な醸造家・ニュージーランドのアレックス・クレイグヘッド氏をアドバイザーとして2015年設立のGRAPE REPUBLIC・滋賀のヒトミワイナリーの設立に従事された岩谷澄人氏が2019年に創業したYellow Magic Wineryの3軒が集結しています。
南陽市のお隣高畠町も古くからブドウ栽培が盛んで、夏から秋にかけて寒暖の差が非常に激しいためシャルドネの栽培に向いているとのことでシャルドネの収穫量日本一を誇ります。JR高畠駅から歩いても約10分の高畠ワイナリーは、ワイン好きなら外せないスポットです。1990年高畠の地に創業し、すでに東北最大規模となった高畠ワイナリーは、年間訪問者数は30万人を超え、サクランボの季節には毎日数十台のバスが立ち寄ります。今や高畠町の名産品でもあるワインを、心行くまでティスティングして、お気に入りの一本を見つけます。
海外のワイナリーのように、国内のワイナリーもここ数年で驚くほどレベルアップしてきていますが、国産ワインコンクールで評価されてきているのが高畠ワイナリーです。60軒を超える契約栽培農家とともに歩み、良質なワインをリーズナブルな価格で造る、ボルドーのトップシャトーに匹敵するワインを高畠のブドウから造ると1990年に創業。2013年にリニューアルした建物は、ピノノワールが両サイドに栽培されているプロムナードを抜けると、美しい庭園とお城のような入口が待ち受けています。
室内ではワイン製造工程の見学や高畠ワイナリーの歴史を綴った展示室などがあります。
敷地内にはぶどう畑が広がり、青空の下に広がるガーデンには、ワイナリーで買ったワインやチーズなどを食べられるピクニックランチテーブルなどもある。
建物に入るとおみやげコーナーの奥にワインのティスティングコーナーがあります。ティスティングは無料のフリー形式で、店内にいくつも置かれているコップを自由にとって、山形ならではのフルーツワイン、季節のワイン、ノンアルコールのジュースなど、店内のワインの説明を見ながら、自分のペースで何度でも試飲することが可能です。漫画「神の雫」39巻で取り上げられて高畠ワインを一躍有名にした「高畠シャルドネ樽醗酵ナイトハーベスト」や「高畠バリックプレミアムロゼ樫樽熟成」といった高額なワインも安価で試飲できるコーナーもあります。
高畠ワイナリーのある高畠町出身の児童文学家「浜田広介」の絵本「泣いた赤鬼」をテーマにしたワイン、マジェスティックL’OGRE ROUGE赤おに(カベルネソーヴィニオン・メルロー・プティヴェルド)・マジェスティックL’OGRE BLUE青おに(メルロー100%)は、最高品質のぶどうだけを集め、小ロットで仕込む新プレミアムワインプロジェクトです。ボルードスタイルの赤ワインで綺麗な樽香と深みのある味わいです。写真は道の駅たかはた
また南陽市・高畠町のある置賜エリアはワインづくりだけでなく、だまざまな見所が点在し、神社や公園めぐりも楽しむことができます。“置賜”と書いて「おきたま」と読むその語源については、アイヌ語の「ウキトマム」(広い葦の生えた肥沃な土地)という言葉であったなど諸説がある。また平安時代には天皇家や摂関家の領地になっていて、古来から豊かな土地であったと推測もされています。そんな高畠町の旅の拠点になるのが、山形新幹線JR高畠駅に隣接する「ホテル フォルクロール高畠」で、改札を抜ければすぐにチェックインできます。
高畠駅は、高畠生まれの童話作家「濱田広介」の世界観を反映したトンガリ帽子でポップな駅舎。町営の温泉施設「太陽館」が備わっていて、棟続きになっていることから。宿泊客は温泉に入り放題です。温泉名は「まほろば温泉」といい、無色透明の単純泉で、入りやすいさっぱりとしたお湯です。
高畠町には、日本三文殊「亀岡文殊堂」があります。「亀岡文殊堂(大聖寺)」の創建は大同2年(807)に東北地方布教のため、当地を訪れた徳一上人が五台山に似た山容に心うたれ、中国の五台山に例え、学問の神、文殊菩薩を勧請し文殊堂を建立し、開山したと伝えられています。文殊堂の安置される大聖文殊師利菩薩は、二十八代宣化天皇の2年正月(約1400余年前)震旦国(中国)五台山より伝来、伊勢国神路山に安置されてあったが、五十一代平城天皇の大同2年勅命により奈良、東大寺住持、徳一上人がここにお移しになされたものです。亀岡文殊は、切戸文殊(智恩寺:京都府宮津市天橋立)、安倍文殊とともに日本三文殊の1つに数えられ、多くの人達が入学、入社試験の際には合格祈願として参拝されている。
又、高畠は関ヶ原以前は伊達家が、その後上杉家が統治。大聖寺は、伊達政宗の生母である義姫(最上義光の妹)が懐妊祈願に訪れた場所としても有名で、それが縁で政宗は天正19年(1591)に古鐘を奉納している。さらに上杉家が米沢に移封となった翌年、直江兼続が歌会を開催しています。
文殊堂へは緩やかな坂道の参道を15分ほど歩きます。鬱蒼とそびえ立つ古杉に囲まれた長い参道は特別の霊域へ入る路であり、年代を感じさせる石灯籠が続きます。さらに坂道を上ると、学僧の石仏がずらりと並びます。
参道沿いに、享保15年この境内で即身佛になった待定坊が諸国を行脚し沢山の浄財を得て建立された豪壮で、この地方では稀に見る建築物である鐘楼堂がある。 楼上に伊達政宗が奉納した永仁4年鋳造した資福寺の古鐘があったが、破損したので現在は原型通り鋳直し、本坊大門傍にある鐘楼堂に祀ってあるとのこと。鐘楼前にはお堂を取り囲むように年代を感じさせる十六羅漢のそれぞれの表情が楽しめる。
向かいの松尾芭蕉句碑には「春の夜は 桜に明けて しまひけり」と書いてある。
仁王門からからほんのちょっと登った所には、地蔵やら供養碑がたくさん置いてあり、利根水という水があります。これは亀岡文殊堂の裏側にもあるが、この水には効能があり、一口飲めば文殊様の知恵を授かれるそうです。
日本三熊野「熊野大社」に向かう途中瓜破石庭公園に立ち寄る。高畠石と呼ばれる凝灰岩の採石場で、「石切り場の清水に瓜を冷やしたところ瓜が割れるくらい冷たい」ということでこの名がついたといわれます。駐車場から岸壁に空いたトンネルを抜けると、岩壁が取り囲む高さ30mの異空間が現れます。岩山を垂直に削ったダイナミックな採石跡のそそり立つ岩壁は、自然が作り出した美しいカラフルなカーテンの様です。古くから長年にわたり採掘され、「ホッキリ」と呼ばれるつるはしや玄のうをもちいた手掘りでした。瓜破公園では大正12年から平成22年まで採掘されていた跡を見ることができます。
ここで採れる高畠石は黄色味のある凝灰岩で、古墳時代には石室に、江戸期からは民家の石塀に使われました。採石跡は公園として整備され、高畠石を使用して建てられた旧高畠駅舎は、国の有形文化財に登録されています。
日本三熊野の宮内熊野大社は東北の伊勢と呼ばれ、、大同6年(806)平城天皇の勅命により紀伊国熊野権現の勧請を受けて後、再建1200年の歴史を誇ります。お祀りされている伊弉諾尊と伊弉冉尊は、神話の中で一番最初に結ばれた男女の縁結びの神様。日本最古の本に記された神様の言葉「あなにやし、えをとめを。」ああ、なんと素晴らしい女性だろう。それは、この国で、一番最初のプロポーズが伝わる神社です。参道の入口には大鳥居、参道には樹齢850年の大イチョウも今なお力強くそびえ立ちます。
47段の階段を上り本殿と二宮に祀られている2柱に参ります。
拝殿は県内最古の茅葺屋根建築であり、伊勢神宮より直伝を許された太々神楽は、熊野大社に伝わって以後、伝授を禁じられたため、伊勢神宮と熊野大社だけに伝わるお神楽となっています。隠し彫が素晴らしい本宮など三十もの神様を境内にお祀りししていて、境内に入った途端、身が清められるのを感じる神聖な雰囲気に包まれています。
桁行7間、梁間3間、南面中央向拝付、入母屋造茅、向拝中央間向唐破風付入母屋造茅葺で、全国的にも類似が少ない大規模拝殿として、天明7年(1787)に再建されました。再建当初の形式が良好に残り、閉鎖的な拝殿は仏間を備えた修験道場としての性格を備えています。
古来より日本では、月にはうさぎが棲むとされてきました。月からのお使いとして、また神々の使者として日本の神話に登場するうさぎは、ご縁を結ぶ動物でもあります。清々しい空気が流れる静寂に包まれた本殿の裏側、玉砂利の上をゆっくりと進むと本殿裏のうさぎの彫刻が待っています。
それはきっと、日本で一番素敵なうさぎの物語。熊野大社の本殿裏には三羽の兎が隠し彫されています。恥ずかしがりな三羽目の兎はなかなか姿を現しません。いつの頃からか定かではありませんが、その三羽の兎を運よく全てみつけると、大切なお願いごとを叶えてくれる。大好きな人に想いを届けてくれる。そんあ素敵な伝説が言い伝えられています。三羽すべてを人の教えてもらうと、ご利益が無くなるとも言われています。※三羽目はなかなか見つかりません。
三羽のうさぎは別名「波にうさぎ」と言われる彫刻です。一設には、雨上がりの満月の日、水面に浮かんだ月にうさぎが映し出され、風で揺れる月とうさぎの姿から「波にうさぎ」と呼ばれるようになったといわれています。その名の通り、波の近くにうさぎが三羽隠し彫りされています。
うさぎを探したら本殿の正面でもう一度お参りします。本殿の前で参拝できる神社は稀で、独特な境内の配置をしている熊野大社では本殿の前でもお参りできます。
願いを叶えるお守りも人気の高い三羽のうさぎにちなんで、手のひらにちょこんと乗っかる可愛いうさぎと良縁を占うおみくじがついた「結(ゆわい)うさぎ」守りが用意されています。
熊野大社の最寄り駅は山形鉄道「フラワー長井線」の宮内駅。昭和63年(1988)に開業した山形鉄道の路線で、JR長井線を引き継いだもの。赤湯駅から荒砥駅まで置賜地方の2市2町を約30kmを1時間で結び、始発駅から2つ目の駅が宮内駅です。列車は最上川に沿うように置賜盆地を走り、中間地点の長井駅に到着します。鉄道利用促進と市民の交流拠点作りを目的としてできた全国初の市役所一体型の駅舎です。さっそく1Fにある駅窓口で鉄印を購入。沿線の4種の花(長井市のあやめ、南陽市のさくら、白鷹町の紅花、川西町のダリア)を散りばめ線路で繋いでいるデザインで色鮮やか。43kmにもわたる“置賜さくら回廊”にも平行して走っているので春に来たいものです。