大仏鉄道は、約125年前の明治31年(1898)~明治40年(1907)に加茂駅から東大寺大仏殿の最寄り駅だった大仏駅を経て奈良駅までを結ぶわずか9.9kmを運行していた関西(かんせい)鉄道大仏線の愛称。色鮮やかな深紅のイギリス製の蒸気機関車「雷光(いなづま)号」に小さな部屋が10両ほどつながった客室は、「マッチ箱」と呼ばれていたとのこと。しかし、明治40年(1907)8月奈良駅から木津駅を経て加茂駅へ至る平坦なルートの路線が開通すると急坂の難所を抱えていたこの鉄道は乗客が減少し、同年11月に廃止になり、わずか9年の歴史に幕を下ろしました。当時の写真はおろか、資料も少ないことから“幻の鉄道”と呼ばれています。、そんな幻の路線に思いを馳せて今も各所に残る隧道や橋台などの遺構を辿るロマンウォークに出かけます。
JR加茂駅(京都・木津川市)からJR奈良駅までの廃線跡に沿ったハイキングコース約13kmの遺構めぐりへ出発です。加茂駅東口を出て線路沿いを歩くこと2分で加茂駅開業時にできた大仏鉄道の遺構で唯一のオランダ積み赤レンガ造り、切妻屋根のランプ小屋があります。電気照明が普及する以前、鉄道の灯火は、石油ランプが使用されていました。ランプ小屋とは、客車の照明に使う石油ランプや燃料を保管した倉庫です。このランプ小屋は、明治30年(1897)10月に建てられたもので、関西電鉄加茂駅の開業当時から残る建物です。ランプ小屋では比較的大きな造りとなっています。
さらに線路に沿って住宅街を歩くとすぐよこの関西本線を走っていた昭和12年(1937)製の機関車C57 56が展示されています。急行列車を引いて、早く走るために、大きな車輪をつけたことからスタイルも良くなり「貴婦人」の名で親しまれました。
次の観音寺橋台へは、歴史を感じるコースと田園風景を楽しみコースとに分かれますが、案内マップ通り分岐で観音寺踏切で線路を渡って田園風景を楽しむコースへ。のどかな田園風景が広がり、遠くに若草山が望めます。赤田川や石部川により形成された後背湿地が広がり、西に大野山を望む風景は、歩みえお進めるほどにどこか懐かしい気持ちになります。
遠くに関西線の列車の音が聞こえてきて、電車が通る橋の近くまでいくと、関西本線の橋梁と大仏鉄道の観音寺橋台が寄り添うようにあります。どちらの橋台もほぼ同時期に造られたものですが、120年以上が経過した今も現役の関西本線とわずか9年という短い期間で廃止された大仏鉄道とのコントラストが郷愁を誘うスポットです。観音寺橋台は、花崗岩の切り石積みによる算木積みの構造が美しく、最上部に枕石を2つ備えています。また大仏鉄道の急な高低差を緩和するために、土盛りによる築堤が設けられています。この橋台は、築堤によって分断された田畑をつなぐ役割を果たしていました。120年以上前の石積みがそのまま残る花崗岩の橋台の石積みは、当時の技術の高さに驚かされます。※ランプ小屋から2.6km
観音寺橋台からすぐ観音寺小橋台も切石積みの橋台で、この先からは、関西線と廃線跡とが離れていきます。さらに心地よい竹林の小道を歩きます。
歩く事15分、重厚な石積みの鹿背山橋台が現れます。花崗岩の石積みの橋台で最上部に枕石を2つ備えています。草木に覆われていますが、その堅固な構えや水路の湿気を受けて艶やかに光る美しい石積みの姿は健在で、遺構の中でも人気のスポットです。
ここから大仏鉄道の築堤に沿うように進み、廃線跡を利用した道路の下に下りると隧道に出ます。道中には案内板があって歩きやすい。
この美しいアーチ型の構造物は、大仏線の築堤を造る際、農道と水路確保のために造られたトンネル・梶ヶ谷隧道です。笠石や帯石といった装飾がなく他の遺構と比べてシンプルなデザインの隧道です。坑門正面はイギリス積み、アーチ部分が長手積みのレンガ造り、下部は花崗岩の切り石積みと贅沢な造りです。現在は木々に覆われていますが、かつてはこの上を機関車が走っていて、現在は市道として利用されています。保存状態が良く、当時は水路だったアーチの中を通り抜けられる大仏鉄道唯一の隧道です。
長さ16mの隧道を抜けると、今度は赤レンガが特徴の赤橋に。赤レンガの遺構が多い中、ここだけ「赤橋」と呼ばれているのは、そのプロポーションの美しさであろうか。赤橋はイギリス積みのレンガ造りの橋台で、最上部に笠石、上部に帯石を花崗岩の切り石で装飾しています。隅石も花崗岩で作られていて、切り石の長辺と短辺を交互に組む算木積みにより橋の強度を堅固にしています。、現在、橋台は数本の石材と木材で歩行者用となった道路を支えていて今も現役で活躍しています。※観音寺橋台から2.5km
赤橋から広い道に出たところにあるのが城山台公園(別名・大仏鉄道公園)で、この先、起伏やカーブが廃線跡を思わせる舗装路を歩く。梅渓交差点近くにあるのが井関川橋梁跡。現在は道となっていますが、かつてこの場所には大仏鉄道の線路があり、線路の高低差を和らげるため、土盛りによる築堤が設けられ、井関川が流れるこの付近には、川を渡るための橋梁があったものと考えられるとのこと。構造物の詳細は不明で、南北に走る道に、当時の軌道の雰囲気が残っています。※赤橋から1.1km
梅美台交差点を左折すると、ロードサイド店舗が並ぶエリアに出ます。平成9年(1997)にまちびらきした新しい街で、周辺の風景は大仏鉄道が走っていた頃から大きく変わっていますが、歩道のデザインが線路を想起させ廃線跡歩きの気分を盛り上げてくれます。
梅美台西交差点の手前に木製のモニュメントがあるのですが、関西鉄道の社章を模したものです。※赤橋から2.3km
モニュメント右横から階段を下りると松谷川隧道に出ます。ここはフェンスがあり中には入れないが、迫石は花崗岩で造られ、石の長辺と短辺を交互に組み合わせた算木積み、レンガの積み方はイギリス積みです。黒っぽく見えるレンガは、赤いレンガよりも高温で焼き上げる「焼き過ぎレンガ」で、赤レンガと黒レンガの色の異なる焼きレンガを交互に配置されているのがこの隧道の特徴です。当時の姿を留め、隧道内の下部には突起があり、その突起に橋を架けて、上は農道、下が農業用水路の2段構造になってたようです。
さらに南下し、京都府から奈良県へ入ります。ただ残念ながら奈良側の遺構は都市開発が進んであまり残されていません。それでも面影を感じられるポイントは点在します。梅谷口交差点付近は、奈良市の中心部からさほど離れてはいませんが、緑が多く残る場所で、梅谷口交差点のあたりから鹿川の方向を望むと、田園風景が広がっています。少し先に松谷川隧道よりも内部が狭い鹿川隧道の美しい石組がひっそりと口を開けていますが、見学用の道は設置されていません。奈良市内で唯一、当時の姿を今に伝える遺構で、農業用水路のために造られた細いトンネルです。トンネルの上が大仏鉄道の軌道跡で、現在は市道44号線となっています。※赤橋から4km
この京都の奈良の県境付近にあることが店名の由来の「国境食堂」で昼食をとります。古民家風のような佇まいで、店内は天井が高く落ち着いた雰囲気ですが、来店客が途切れることがありません。天井から吊るされた大きな2つの提灯がとても印象的で、テーブル席と小上がりのお座敷席があります。名物は大きなトンカツが2枚も載った大盛りカツ丼で、ご飯2.5合に卵を三つも使いボリューム満点です。あのギャル曽根さんもプライベートで来られたとか。
メニュー表のど真ん中に“ジャンボ うどんやのカツカレーライス(すじ肉入り)1600円”を注文。関西風のダシの効いた出汁で溶いたカレールーに片栗粉でとろみをつけたまさしくカレーうどんのカレーライス。直径30cmの大皿にご飯は1.5合はあろうか、その上にトンカツが載り、すじ肉がトッピングされています。まさにカレーは飲み物という感じのシャバシャバカレーでした。
お店を出て1kmほど歩くと、前方に大仏鉄道で最も標高が高く急勾配で最大の難所だった黒髪山トンネル跡ヘ向かう急坂を上ります。このトンネルは、長さ約86m、幅約5m、高さ約6mで、レンガ製の関西鉄道の社章が、賀茂側の入口に一つ、奈良側の入口には二つ設けられていた大仏鉄道唯一のトンネルでした。木津駅経由の平坦なルートが開通すると廃線になり、その後は道路用トンネルとして昭和41年(1966)頃まで残っていましたが、道路拡張に伴い山ごと削り取られて現在の切り通しに姿を変え跡形もありません。
現在は、道路のはるか上に架かる跨道橋が見せる空間が、トンネル跡地であることを感じさせてくれます。また黒髪山トンネルがあった位置に架かる跨道橋の黒髪橋は奈良市内で最も高い位置にある陸橋で、橋の上からは、遠くに東大寺大仏殿を見ることができるとか。
道なりにやすらぎの道を下りながら市街地へと入っていきます。かつて大仏詣の参拝客で賑わったとされる広い構内の大仏駅も何一つ残ってなく、駅の南端部にあたる一角に唯一、ここに大仏鉄道が走っていたことを物語る大仏鉄道記念公園が整備され、蒸気機関車の動輪モニュメントが静かに見守っていました。大仏駅は、東大寺の西方に1.8km離れた所にあり、転害門が主要な入口でした。駅前広場7には、東大寺に向かう多数の人力車が待機していたといいます。※赤橋から7.5km
佐保川を渡ります。佐保川のかかる下長慶橋付近の川底にレンガ製橋脚の基底部が残っていますが、今はもう川底に。奈良市内を流れる佐保川は桜の名所。約5kmにわたり桜並木が続きます。その中にある樹齢170年の「川路桜」は幕末の奈良奉行・川路聖謨によって植樹されました。
約4時間の行程のゴールはJR奈良駅です。※大仏鉄道記念公園から1.2km
用語解説 ※イギリス積みの特徴は、レンガを交互に縦と横に積むことで、縦に並ぶレンガと横に並ぶレンガが交互に見えるデザインが生まれます。具体的には、1列目は縦に長い面(ストレッチャー)を見せ、2列目はレンガに端面(ヘッダー)を見せるように積み、このパターンを繰り返します。メリットは独特のデザインが生まれ、外壁にリズミやアクセントを加えることができること。交互の積み方により、レンガ壁の強度や安定性が増すこと。この積み方は古典的であり、歴史的な建築やレトロな外観を持つ建物に適しています。
※オランダ積みの特徴は、イギリス積みと同様、1列目は縦に長い面(ストレッチャー)を見せ、2列目はレンガに端面(ヘッダー)を見せるように交互に段を積み上げますが、イギリス積みと異なり、長い面の端部を隔段、七五の隣を小口で継ぐ段と長手で伸ばす段で交互に積み上げます。
※長手積みの特徴は、レンガの長手(ストレッチャー)部分を馬目地状に積む方式で、奥行きを半分に積んでいるので、長手半枚積みとも呼ばれています。この方法は主に花壇や80cm以下の塀で取り入れられています。