山形・鶴岡でクラゲに癒され、庄内の伝統野菜を堪能する。

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山形県北西部、日本海に面した庄内地方にある鶴岡市は国内で唯一、ユネスコ食文化創造都市の認定を受けています。この美食都市を代表するレストラン“アル・ケッチャーノ”が、あつみ温泉から2022年7月7日移転オープン。シェフの奥田政行氏は、庄内のさまざまな生産者を訪ねて地域の味を発見し、引き立て、料理を続けてきた人です。水田に囲まれ、霊峰・月山を望む新店舗で、庄内の地域とシェフが生み出す料理に舌鼓を打ってみたいと山形・庄内地方にでかけます。

北陸自動車道から日本海東北自動車道を経由し朝日まほろばICで降りて国道7号で一路鶴岡を目指します。いよいよ「念珠関跡」を越えれば東北の地。白川関、勿来関と共に奥羽三大古関の一つで、最初の関所は今から1300年ほど前にこの地より少し南の地点にあったが1600年頃に現在の地に移設されたと言われています。江戸時代には「鼠ヶ関番所」とも言われ、重要な役割を果たしてきました。文治3年(1187)兄源頼朝に追われて、海路舟を捨て上陸し、この関所を通ったと伝えられていることから、有名な勧進帳の舞台になった所とも言われる。国道沿いにこじんまりとある関所跡なので身落としてしまいそうです。

山形と新潟の県境の「鼠ヶ関」を越え、道の駅「あつみ 夕陽のまち しゃりん」で朝食をいただく。日本海を望む抜群の立地に、海に浮かぶ舟をモチーフに建てられた建物。海岸線に沈む夕日が美しいことで知られ、日の入り時刻に合わせて訪れる観光客も多く、海沿いには遊歩道が整備されています。

お食事処「早磯ドライブイン」は朝7:00から営業しており、鼠ヶ関漁港に水揚げされた旬の魚の料理が自慢。海鮮丼や刺身定食など、天井が高く広々とした空間で海の景色を眺めながら食事がいただけます。

この日は鯛茶漬け1200円を注文。だし汁をかけていただく鯛茶漬けは、上品で繊細。美味しさはもちろん、見た目にも美しい一杯で、新鮮な鯛の身を先ずは、刺身のままワサビと醤油でいただき、次に特製味噌ダレでいただく。キリッとした歯ごたえと噛むほどに甘味が感じられる。そして最後にだし汁をかけていただけば、ふっくらとした鯛の身と味噌ダレとごはんがだし汁によく相まって美味しい。1度で3種類味わえる至福の一時です。

先ずははいきなり朝からクラゲで癒されます。海辺を走る国道7号(おけさライン)で北上、途中由良で県道50号線に入り、しばらく走ると、荒波の日本海に突き出すように海岸線にひときわ目立つ、白くて大きな建物が見えてきます。目的地 「鶴岡市立加茂水族館」通称かもすい到着です。庄内ドライブを思い立ったきっかけはクラゲ。水族館の大水槽を泳ぐ幻想的なクラゲの映像を見た途端に、ここに行きたいと思わずにはいられません。1997年にクラゲの展示を始め、クラゲの展示種類世界一で世界記録に認定されたこともあります。かつて倒産寸前だった水族館を救ったのもクラゲの展示が人気を呼んだからだといい、クラゲマニアの聖地です。

開園は9時、入館料1500円を払い、館内に入場して、最初は淡水魚、海水魚の展示エリア地元「庄内の魚」についても、わかりやすく展示。サケやクロダイやカサゴが悠然と水槽を泳ぎ、庄内浜の漁業についても網の種類や漁獲方法まで詳しく解説しています。そこを抜けるといよいよクラゲ展示エリア・クラネタリウムです。照明が落とされた展示スペースを歩いていくと、丸型や楕円形の水槽が置かれ、色や形の異なる世界中のたくさんのクラゲが出迎えてくれる。透明の体でスイスイ泳ぐ姿は神秘的であり、キラキラ光る個体や、ネオンサインのように七色の光が体中を移動するもの、目をこらさないと見えないような小さなものまで、多種多様なクラゲが、傘を開いたり閉じたりしながらまるで宇宙遊泳のように泳ぐ姿は可憐で美しく幻想的です。

世界中のクラゲたち、約80種類を展示していて、世界最大のクラゲ展示室。格別の癒し空間です。

クラゲチューブを隔てたクラゲ解説コーナーでは、「クラゲのおはなし」で、クラゲの餌の食べ方や食べているもの、クラゲに目や口、心臓や脳はあるのかといったそんなクラゲの不思議を解説しています。クラゲが触手に触れる餌をゆっくり食べる様子を見ることができますよ。また隣接したミズクラゲ栽培センターでは、クラゲはどのような増え方をするのか?その一端を紹介しています。飼育スタッフが作業する様子を見ることができます。

スタッフによる「クラゲのおはなし」を拝聴し、「クラゲには脳みそがないです」との一言や、薄い手袋をしてクラゲに触れる体験ではプルプルとした生々しい感触が印象的で、まさにクラゲ尽くし。

クラゲ展示の一番の注目は一番最後に出迎えてくれる圧巻のクラゲドリームシアターです。観覧スペースが広くなった先には、世界最大級の直径5mの円形水槽があり、その中には約1万匹のミズクラゲが、ゆらゆらと気持ちよさそうにただよっている。青白く照らされた大きな水槽はとても幻想的で、水槽の前に立つと大迫力、海の底かはたまた宇宙か、広大な空間に吸い込まれたかのようにゆらゆらと自分も浮かんでいるような気分です。

水槽の前に座れるスペースもあり、日々の喧騒から遠く離れ、穏やかな時間が流れると同時にそこは時がたつのを忘れて眺めていられる絶好の癒しの空間です。

館内の海獣エリアには悠々と泳ぐ様子やお昼寝姿も見られる「ひれあしプール」やアシカやアザラシの開設を行う「ひれあし広場」もあります。ゴマアザラシも愉快に鼻の穴を広げています。

山形県西部、庄内平野の南部にあたる鶴岡市は、江戸時代以来、東北一の米どころ庄内藩にあって、藩主の酒井氏が鶴岡城を置いた庄内の中心地です。2014年12月にユネスコの「創造都市ネットワーク」のひとつ、食文化(ガストロノミー)部門に日本で初めて加盟が承認された食の都市です。鶴岡の食のキーワードは4つ。ひとつは出羽三山への信仰のなかから生まれた食文化・精進料理。2つめは庄内藩主・酒井氏のもとで育まれた「農」への経緯。3つめは国の重要無形民俗文化財にも指定されている「黒川能」に代表される行事食・郷土料理の継承。そして4つめは、50種以上が継承されているといわれる庄内固有の在来作物の存在です。それらが連綿と受け継がれ、「生きた文化財」とも呼ばれています。そして長く受け継がれてきた山形伝統野菜のおいしさを広め、保存・継承に努めているのが“アル・ケッチャーノ”奥田政行氏です。

その前に山形伝統野菜「黄金みょうが」「温海かぶ」「外内島きゅうり」・・・といった「在来種」と呼ばれるどれも聞いたことのない野菜の品種名が記されている漬物がズラリと並ぶ「つけもの処 本長」を訪ねます。明治から続く老舗で、その歴史ある建物の佇まいが美しい。

庄内は山や海に囲まれて交通の便が悪く、周囲の文化と交わることが少なかった歴史があり、種が交わらず古くから地元で作られていた野菜の品種が数多く残った伝統の在来種漬けのお店です。看板商品は粕漬け。この地域は有数の酒どころでもあり、地元の酒蔵の酒粕をぜいたくにに使い、今も創業当時と変わらない寛政年間に作られた木樽でじっくり漬けられた粕漬は芳醇な香りにうっとり目を閉じてしまうほど。もともと創業者である本間長右ェ門は、酒蔵を始めるつもりで兵庫県の灘へ酒造りの修行へ行ったのですが、そこでおいしい粕漬けと出合い、地元に戻って漬物店を始めたとのこと。

看板商品は“民田なすのからし漬”。三百年以上前から鶴岡市の民田地区で栽培されている、伝統在来野菜の民田茄子は、芭蕉も『めずらしや 山を出羽の 初茄子』と句を詠んでいて、「マツコの知らない世界」でも紹介されました。小粒でコロンと丸くしまった硬い肉質がから漬けに最適。ツーンと鼻に抜ける辛さと程よい甘みが人気です。

鶴岡市の「アル・ケッチャーノ」といえば、言わずと知れた地方レストランの雄。特定のレストランを旅の第一目的とした旅も珍しくありませんが、その潮流を作りだした立役者のひとりです。約6000㎡の広大な敷地に、周囲の自然にしっくりとなじむアースカラーの建物が2棟、その手前に広々とした駐車場があります。

店名のアル・ケッチャーノは『(ここに全部)あるからね』という意味でイタリア語にあらず。わざわざ遠くから取り寄せなくても、最高においしい食材はここ庄内にある。庄内の野菜は香りがよくみじみずしいものが多いのでオイルと塩で仕上げるほうが個性を活かせるし、魚介は庄内の水と塩で調理すれば本来の香りや旨みを引き出せるとのこと。

建物の向こうに見渡す限りの田んぼと霊峰・月山を望み、テーブルがゆったりと配置されたダイニングの窓からも、庄内らしいのどかな風景を望むことができます。

本日の前菜は庄内浜のお魚(イシモチ)と野菜(カブ)の食感カルパッチョ。柔らかいイシモチの身と少し固めのカブにオリーブオイルと笹川流れの月の塩が絡み、口の中でしっかりと二つの食感が合わされます。

選べるパスタは、庄内豚ベーコンのアマトリチャーナやもって菊とトマトのお花のフェデリーニなどがある中から、井上農場さんの空芯菜のぺペロンチーノを選択。従業員一同で収穫した空芯菜とパスタをオリーブオイルをからめたあっさりとした味わい。塩は茹でる際に入れたのみで空芯菜のシャキッと感を残して仕上げた逸品。隠し味に鷹の爪が少し入っている。

古くから菊を食べる習慣がある山形は、食用菊の生産量全国一位。生産量の7割を占めるのは黄色い菊で「寿」「岩風」などの品種ですが、それと並んで有名なのが、シーズンが10月中旬~11月上旬の淡い紫色の菊「もってのほか」です。そのユニークな名前の由来は「菊を食べるなんてもってのほか」だとか「もってのほかおいしい」など諸説あります。。黄色い菊の多くは花弁が平らで柔らかい食感なのに対し、「もってのほか」は花弁が管状になっていて、シャキシャキ」した歯応えや、湯がいた後もボリューム感があるのが特徴です。噛むとほのかに甘く、菊独特な香りが口の中に広がります。昔から親しまれてきた伝統的なエディブルフラワー(食用花)です。

2皿目は鯉のムニエル。シェフの知り合いに米沢で養鯉業を営んでいるの方がおられるとのことで、壁のメニューにも鯉料理が多く掲載されています。山形県の中央部を縦貫する最上川の源流域である米沢市一帯では、昔から、川で獲れ、田や養魚場で育てた鯉は栄養価4の高い優れた食材として親しまれてきたようです。皮目をしっかり焼かれ、中は淡泊な白身で適度な脂もあり、鯉と言われなければ、わからないほどでした。

本日のメインディッシュは、山形牛のハツのタリアータや日本一羽黒の丸山さんの羊のローストなどがある中から、庄内豚(三元豚)のグリルとジャガイモのローストを選択。田んぼに良質な堆肥を還元するため、農家が飼っていた家畜。なかでも庄内では養豚が盛んで早くから品種改良や飼料の研究が進められ、養豚先進地となり「庄内豚」が誕生しました。「ガッサンL」を母豚とする三元豚は、足腰が丈夫な上、肉に甘味があり、発育も早い。グリルされた三元豚は肉厚で脂身もしっかりあるものの、脂のクセがなく、脂と肉の旨味の差がなくバランスがいい。ローストされたジャガイモ表面に焼いた豚の脂の香りが残り、中はホクホクで豚の脂を口の中で吸収してくます。

庄内浜のお魚のハーブローストはにはびっくりさせられます。庄内浜は山形県の日本海沿岸、北は遊佐町から鼠ヶ関までの135kmで、1年を通じて130種もの魚が獲れる海の宝庫とのことです。20cmはあろうかというサワラの頭部を骨ごとハーブといっしょにローストし後からオリーブオイルをかけた一品。骨から出たエキスと脂がしみ込んだサワラの淡泊な白身が仄かなハーブとオリーブオイルの香りとをまとています。

 

本日のドルチェはラ・フランスのアイス乗せ、シャインマスカットを添えて。洋梨の女王といわれるフランス生まれの「ラ・フランス」は、今ではフランスでは栽培されず日本で西洋なしとして一番多く生産され、山形県が全国の8割の生産を占めています。別名「バター・ペア」といわれ、美白で特有の芳香と、果汁がしたたるち密な肉質が特徴です。

飲み物は奥田シェフの提案、アルケッ茶。無農薬で育てた静岡県産の緑茶を白麹で発酵させた、自然な甘い香りと美しいロゼ色で人気の新感覚発酵茶です。「世界緑茶コンテスト 2015」で金賞受賞しています。

庄内地方は三方をぐるりと山に囲まれ、庄内平野の中央部を東から西へ、田畑を潤し肥沃にしながら日本最大級の一級河川、最上川が横断し、日本海へ注ぐ。さらに、北の鳥海山や南東の月山といった2000m級の山々には一年中雪が残り、春になると、山からの豊富な伏流水が海へと流れ込み、庄内の海を豊かにしています。そんな土地で育った伝統野菜や魚介類を旅でめぐりあいたいものです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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