上信越高原国立公園の中心部を占め、ユネスコエコパークに登録された貴重な自然環境を有しながらも、車で気軽に訪れることができる場所として人気の自然の宝庫「志賀高原」は、標高1500mから2000mに広がる日本屈指のリゾート地。特別な装備がなくても、誰でも簡単に登山気分が味わえ、高山植物や原生林、美しい湖沼の風景を楽しむことができます。
その豊かな自然を満喫するならトレッキングがオススメ。自然をより身近に感じられるアクティビティとして志賀高原には山歩きに不慣れな初心者も楽しめる遊歩道から、上級者向けの本格的な登山コースまで個性豊かな15のトレッキングコースが設定され、目的地やレベル、所要時間などに合わせて、ぴったりのコースを選ぶことができます。数あるトレッキングルートの中でいちばん人気なのがコース全長10Kmを半日かけて歩く「四十八池・大沼池コース」です。原生林を歩き、渋池や四十八池を巡りながら、志賀高原一の大きさと赤い鳥居が湖面に浮かび神秘的な輝きを見せる大沼池を目指します。大蛇伝説の舞台をめぐる人気ルートで、標高2000mを越える山々が回りを囲むエメラルドグリーンの水面の輝きに感動です。データ全長10.3km、標高差約360m、所要時間4時間30分
「池めぐりコース」は硯川と大沼池入口双方からスタートできますが、バスの利便性と全体的に下りが多い硯川から入ることをおすすめします。周遊コースではないのでバスの連絡などは事前に押さえておきます。
まずは蓮池に隣接する志賀高原山の駅の無料大駐車場に車を停めます。かつて志賀高原ロープウェイの山麓駅「蓮池駅」をリノベーションした施設で、現在は志賀高原のメインバスステーションになっています。館内にはお土産など県内の名品などを扱うショップやレストラン、レンタル用品店などが入り、志賀高原の観光。交通拠点、休憩スポットとなっています。あの「つけ麺」の考案者の故山岸一雄の生まれ故郷が山ノ内町ということから「山ノ内大勝軒」も。地下1階にはトイレもあります。
かつて稼働していたロープウェイ発着所は志賀高原随一の撮影スポットに生まれ変わりました。西館山や東館山や寺子屋山まで見渡せます。
山の駅の道路挟んで向かい側にはこれから向かう大沼池の大蛇神を祀る大蛇神社があります。社前の説明板には「大沼池の大蛇と黒姫の物語」が書かれていて予習しておくと楽しみが増します。道中の安全を祈願しておきます。
出発地点のほたる温泉(硯川)までバスに乗って向かいます。志賀高原山の駅発渋峠行9:01発のバスに乗って所要時間13分でほたる温泉バス停に到着します。まずは前山サマーリフトに乗って一気に標高約1800mの前山山頂に降り立ちます。歩くと20分、リフトに乗れば4分の空中散歩、どちらを選ぶかは自身の体力と時間との相談になります。
前山山頂(標高1796m)からは眼下に熊の湯硯川地区のホテル群が見え、笠岳(2075m)や横手山(2305m)が望めます。ここから緩い上り坂で標高1900mを目指します。大池までは5kmの道のりです。
前山山頂から渋池へと続く歩道の両側に前山湿原が広がっています。
しばらく(5分程度)歩くと、コースで最初に見られる「渋池」に到着します。標高1800m、水質は酸性、溶岩の窪地に地下からの湧き水がたまってできた池です。高層湿原にある渋池には、風に揺られてゆっくりと漂う30cm~40cmの浮島がいくつもあり、幻想的な雰囲気を作り出しています。浮島や岸辺に赤みかかって見えるのは、食虫植物のモウセンゴケです。
池面後には横手山がその影を落としていて、水面に映り込む“逆さ横手山”も美しいです。池の周囲には氷河期の名残りといわれるハイマツが多く生息しています。
今歩いている道は、かつて江戸・明治期に商人らが物資を運んだ交易の道だったといいます。信州のリンゴや竹細工、米を求め、群馬県・草津から山を越え長野県・志賀高原に入った草津商人たちはこの渋池でしばしの休息をとっていたといいます。ここから市街へは下り坂が続き、渋温泉も近いことから、渋温泉へのあこがれから渋池という名がついたのではという説もあります。
渋池から緑の深い小径を歩いて20分程で分岐点に出ます。左に行くと志賀山、裏志賀山を経由するコースですが、健脚向けなので右に行くコースを選択して直接「四十八池湿原」を目指します。志賀山や裏志賀山の山容を間近に望みつつ、広葉樹のダケカンバと針葉樹のコマツガ、オオシラビソなどが繁る手付かずの自然が広がる原生林を抜けていくと25分程で森が突然開け、高層湿原が目の前に現われます。この湿原は志賀山と鉢山とに囲まれた標高1880mのところにあります。ここの東屋で少し休憩をとるのもいいです。因みに標高2035mの志賀山、裏志賀山を縦走し志賀山登山口での合流まで1時間半の行程です。
池塘が段々畑のように階段状に点在し、その間をくねくねと曲がる木道が設けられていて、たくさんの湿原植物を見ながら歩いていくことができます。雪溶けとともにミズバショウが咲き、続いてコバイケイソウ、10月のリンドウまで、春から秋にかけて次々と花が咲きます。湿原の中に深さ30~70cmほどの大小さまざまな池塘が70ほど点在することから四十八池の名がついたといい、高山植物が咲き乱れる幻想的な雰囲気は、神々の踊り場とも呼ばれています。
志賀山登山口で登山コースと合流し、丸太を横に敷いて歩きやすくした700段の階段をくだります。50分程のアップダウンのあと、やがて木々の間から青色とも水色とも表現できるこのコースのハイライト「大沼池」が見えてきます。火山のせき止め湖で、周囲5.5Km、志賀高原最大の湖です。強酸性湖の為、魚は生息していませんが、天候により湖面がコバルトブルーやエメラルドグリーンに色を変える神秘的な美しい湖です。
大沼池には大蛇伝説が残り、黒姫の悲恋の物語が今も語り継がれています。また志賀高原では古くから大蛇伝説にちなんで毎年8月下旬3日間に渡って「大蛇祭り」が行われています。大蛇伝説とは、現在長野県中野市に城を構えていた戦国武将・高梨政盛の美しい娘、黒姫に出会い恋に落ちた大沼池の大蛇が、殿様に騙され殺されかけます。怒った大蛇は暴風雨で村に大洪水をおこしたのですが、悲しんだ黒姫は大沼池に身を投じ、大蛇を鎮めたのだという悲話なのです。湖面に立つ大蛇神社の赤い鳥居とのコントラストも美しい。
標高1730mの湖畔にはあちこちにベンチがあり、お弁当を広げるのに持ってこいの場所です。この大沼池は志賀高原ビールのロゴにもなっています。
5.5kmの周囲は半周することが可能で大沼池を左手に見ながら池尻をめざします。青空の下、静かに横たわる大沼池を眺めると、空の青と水の青、同じ青であってもそれぞれの色があることを知ります。ただ美しいだけでなく、深みを帯びた引き込まれるような青がそこにあり、遠くに見える赤い鳥居がひと際神秘的に感じられます。
2015年9月20日撮影
歩くこと30分で大沼池の終点、池尻に到着します。池尻からのブルーがより濃く感じ雲の映り込みとともに素敵です。左手には大沼から渋温泉郷へ私財を投げ打って水を引いた吉田桜山翁の大きな石碑があります。
2015年9月20日撮影
池尻からは工事用車両も通行する一本道である大沼林道を、木々を渡って行く涼やかな風を感じながら横手川沿いに軽い下りを1時間歩いて行くと大沼池入口(清水口)に到着します。
健脚ならば途中「逆池」方面の谷を下っていく道があります。岩場がむき出しになった太古の森から逆池を目指します。
歩くこと40分逆池に到着します。※これが逆池と思っていたのですが違っていて丸池水源地。
さらに20分歩き終了地点間際の清水公園までいくと「志賀の源水」と呼ばれる冷たい清水が湧き出ています。あちこちからわき水のあることから清水という地名がつけられていて、ベンチとテーブルがあるだけの小さな公園ですが、大沼池からここまで1時間半の散策の疲れを癒してくれます。
あとは終了地点の大沼池入口バス停から車の置いてある志賀高原山の駅までもどることになりますが、歩いても10分ほどで戻れます。
志賀高原は志賀山と裏志賀山を核にした高原で広さは1万ヘクタールを超え、15あるトレッキングルートは標高1500mから1900mの溶岩台地に網の目のように張りめぐらされていて、初級者から上級者まで楽しめる様々な様々なコースが整備されています。標高1700mの亜高山帯に常緑樹林が分布し、亜高山性高層湿原が広がるユネスコエコパーク「志賀高原」をゆっくり歩いてみてはいかがですか。
数あるコースのうち、今回ご紹介した「四十八池・大沼池コース」以外におすすめなのが、手つかずの原生林、湖沼、湿原、可憐な高山植物を眺める蓮池から信州大学自然植物園をめぐり、田ノ原湿原、木戸池へと抜ける全長4・1Km「自然探勝コース」と上林からサンバレーまでの旧草津街道沿いを歩いて古の時代にタイムトリップできる全長5・6Km「志賀古道 峠の三十三観音コース」です。
「白い綿帽子ワタスゲに出会える初夏の志賀高原自然探勝コース」はこちらhttps://wakuwakutrip.com/archives/7581