紅葉に彩られる信州大町「高瀬渓谷」にある3つのダムめぐり

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長野県大町市は北アルプスの峰々が顔を並べる山岳観光地。今回の目的地である高瀬渓谷はその山間部にあり、紅葉の美しさが県内有数の景勝地として知られています。槍ケ岳を源流として流れ下る高瀬川には、上流から順に堀削の際に出た自然石を積み上げた“ロックフィルダム”の高瀬ダム、七倉ダムが立ち、下流の重力式の大町ダムには広大なダム湖・龍神湖があります。高瀬川に沿って敷設された長野県道326号槍ヶ岳線は、槍ヶ岳山頂から大町市大町を結ぶ一般県道ですが大町ダムを通り七倉から先は一般車通行止めであり、東京電力の管理車両も高瀬ダムの最上流までしか入れません。高瀬川沿いに県道326号を走り、紅葉を愛でながら高瀬渓谷にある3つのダムをめぐっていきます。

JR大糸線信濃大町駅から県道45号で黒部ダムの長野側の拠点「扇沢」に向かう途中、県道326号で「大町ダム」に向かいます。信濃川水系高瀬川に位置し、東京電力が槍ヶ岳を水源とする高瀬川は急流で水量も豊富であったことから昭和44年(1969)に高瀬ダム、七倉ダム建設に着手したのですが同年8月に発生した大洪水を契機に建設省(現国土交通省)が昭和60年(1985)に完成させた高さ107mの重力式コンクリートダムの特定多目的ダムです。国土交通省直轄ダムであることから「直ダム」とも呼ばれ、犀川筋では唯一であり、信濃川水系全体でも同様に被害を受けた新潟県の魚野川筋に三国川ダムがあるだけです。

ダム湖は地元に伝わる伝説「犀龍と泉小太郎」にちなんで「龍神湖」と名付けられました。大町ダム脇にある高瀬渓谷緑地公園には安曇野伝説の竜に乗った泉小太郎の像が立っています。伝説では昔、安曇野から松本平にかけては、まんまんと水を湛えた湖でした。そこの主の犀龍と山向こうの高梨(須坂市高梨)というところの池に住む白龍王との間に生まれた日光泉小太郎は、湖の水をなくして豊かな郷土をつくりたいと願っていました。ここダムの地尾入沢で再び逢った親子は心が通じ合い、犀龍は背中に小太郎を乗せ、山清路の岩盤を打ち破って湖の水を日本海へ落とし、この地を豊かな平野にしたということです。

大町ダム脇にある展望広場から東側に目を向けると、大町市街を眼下に見下ろし、遠くに鷹狩山や霊松寺山等の山並みが見渡せるビューポイントです。龍神湖右岸には遊歩道があり、特に紅葉の時期は素晴らしく、二の沢まで約1.5km、往復約1時間の静かな湖畔の自然散策が楽しめます。

県道326号をさらに上り、高瀬トンネル(430m)手前右手から見る「北葛沢」の渓谷の紅葉は絶景です。駐車できるスペースも数台分しかありませんが車を停めて是非50m程トンネル方向に歩く価値ありです。写真愛好家も狙うポイントですが、車がよく通るので気をつけて歩きます。水量が少ないものの綺麗な水の流れの両側に色とりどりの紅葉が素敵なお手軽紅葉スポットです。

高瀬トンネルを抜ければ道路の傾斜も緩やかになり、高瀬川沿いに「葛温泉」の宿が3軒(高瀬館・温宿かじか・仙人閣)点在し、それぞれ日帰り入浴が楽しめます。葛温泉の「葛」という温泉名の由来は、慶長年間(1596~1615)の飢餓の際、里人が食料に困り、秋の七草の一つである葛を採りに山中に入ったところ、温泉が見つかったということです。開湯は安政年間(1772~1780)といわれ、一時高瀬ダム建設の契機となった昭和44年(1969)8月11日の高瀬川の水害で3軒すべてが流出しました。高瀬渓谷のほとりにひっそりと佇む葛温泉はまさに秘湯の趣があります。1分間に1500ℓを超えるほど湯量は豊富で、10km以上離れた大町温泉郷などに配湯してています。葛温泉から七倉にかけての高瀬川沿いも紅葉の名所です。

七倉ダム」は堀削の際に出た自然石を組み上げた“ロックフィルダム”です。高さは125m、ダム体積738万平方mで、昭和45年(1970)着工、昭和54年(1979)に完成しました。一般車両はダム直下の堤体下の駐車場までしか行けませんが、そこからダムに沿って伸びる階段で天端まで登ることはできます。しかし、かなり体力が必要ですのでエメラルドグリーンの湖水と紅葉の競演は素晴らしいのですが、その景色は車中、七倉トンネルから垣間見るだけになります。

長野県道326号槍ヶ岳線は七倉温泉が終点で、これより先の高瀬ダムまでの道は東京電力が管理する道路のため七倉ゲート~高瀬ダム間はマイカー通行禁止です。そのため車は「七倉山荘」の前の無料駐車場(約50台)に停め、ここからは、特定タクシー(一台2400円)で15分か、約6km、90分の徒歩で「高瀬ダム」の堰堤まで上ります。タクシーは1台4人まで乗り合わせができますが順番待ちになることもあります。東京電力管理用ゲートから先、七倉トンネル、山の神トンネルを通って高瀬ダムにむかいますが、徒歩の方はトンネルの手前を右に入っていくと登山口になります。

タクシーの運転手さんが気を利かせてくれて、ダム直下の広場に車を停めてくれます。

新高瀬川発電所の上部ダムとなる「高瀬ダム」は、日本で黒部ダムに次ぐ2位の高さ176m、群馬県奈良俣ダムに次いで2位の堤体積1140万平方mの規模の国内有数の自然石を積み上げたロックフィルダムです。ロックフィルダムとしては日本一高く、前田建設の施工ですが、ひとりの職人が6年かけて8万個もの石を積み上げたその迫力に脱帽です。日本最大級の揚水発電所の上部調整池を形成し、下部調整池の七倉ダムと同じく昭和45年(1970)年着工、昭和54年(1979)に完成し両ダム間で最大128万キロワットを発電しています。曽野綾子は小説『湖水誕生』で、高瀬ダム建設に関わる技術者たちの熱意や技術などを記しています。

その積み上げられた石の中の九十九折の道をタクシーが登って行きます。車窓からは石の大きさと白い石に映える紅葉とのコントラストに目を奪われます。

高瀬ダムの堰堤から望む高瀬渓谷

平成17年(2005年にダム湖百選にも選ばれているダム湖・高瀬ダム調整湖に向かって左の高瀬トンネルが北アルプスの秘湯・湯俣温泉方面で、写真の右の不動沢トンネルが烏帽子岳方面への登山口になっています。トンネル入口の上部は「槍見台」があり、天気が良いと槍ヶ岳の穂先が遠望できます。ロックフィルダムからの景色は、トンネルの上、紅葉の山の奥に少し雪をかぶった不動岳(2601m)や湖の奥、砂地に見える不動沢から山の稜線に目を向けると山頂の尖った形状が烏帽子に似ていることに由来する烏帽子岳(2628m)が見れます。

少し足を伸ばして高瀬川左岸側「不動沢・濁沢」へ槍見台下の不動トンネル(約400m)を抜け、ブナ立尾根・烏帽子岳方面に歩いていきます。途中にある「濁沢の滝」までのトレッキングコースは往復で約1時間半の距離です。トンネルを出てすぐに、目の前に広がる美しい金色の景色に向かって長さ約170m不動沢吊橋を渡ります。

左から不動、七倉、針ノ木岳といった、北アルプスを望む吊橋からの景色は圧巻であり、この日は駄目でしたが反対側には美しいエメラルドグリーンの色をした高瀬ダム湖の姿が目に映ります。花崗岩が歳月を経て風化して崩れ、そこに含まれている長石の結晶が粘土化したものと、高瀬川上流から流れてくる硫黄の細かな粒子が混じり合う水だからといわれています。ここより烏帽子岳から野口五郎岳を経て槍ヶ岳に至る裏銀座縦走コースの入口なのです。

橋を渡ると濁沢キャンプ場の案内看板に従って烏帽子小屋方面に進んでいきます。20分ほど歩くと、ブナ立尾根を登り始める右側奥に「濁沢の滝」が見えてきます。土砂の堆積が多くなってきているため、川沿いの道は50mから100mも幅のある白い砂の道で、少し硬い砂漠の上を歩いているような気持ちになります。進む方向の目印が少しわかりにくいのですが、滝に向かって歩いていきます。ちなみに手前の橋は、烏帽子岳など裏銀座へと向かう登山道入り口へいくための丸太橋です。

高瀬ダムえん堤より徒歩35分。落差約50mの滝は岩場を滑るように流れ落ち、水しぶきをあげています。岩場を色どる秋の紅葉とともに素晴らしい景観です。

ダム湖まで戻り帰りの特定タクシーが来るのを堰堤のベンチに座りダム湖から吹く心地良い風にあたりながら待ちます。

帰路もタクシーで七倉山荘まで戻ることになります。七倉山荘では日帰り入浴や昼食をとることができます。売店のようなお店に入って券売機で食券を購入するシステムです。食事は店奥の明るいテラス席でいただくことができます。ウッド調のインテリアは緑に映えて気持ちよく解放感もあります。

おすすめは一日20食の「炊き込みごはんときのこたっぷりのトン汁定食」。冷えた身体に温かいトン汁は、きのこもたっぷり入って美味しさをより感じさせてくれるはずです。温泉卵に野沢菜、旬のりんごもついて信州の味覚満載です。

高瀬川右岸側のトレッキングは、高瀬ダム湖に向かって左手の高瀬トンネルから始まります。湯俣川と水俣川出合から始まる、高瀬川のほとんど始まりといってよい地点にある高瀬渓谷最深の温泉の湯俣温泉(晴嵐荘)まで約10km、徒歩で約2時間半の距離です。ダムから湯俣、墳湯丘へ向かう登山道は、ほとんど上り下りがなく素晴らしい眺望を眺めながらのトレッキングが楽しめます。自分の体力と相談しながら所要時間を計算して高瀬渓谷の眺めを楽しんで下さい。

川の渡渉を確認!信州高瀬渓谷最奥の秘湯・湯俣温泉を訪ねる」のリンクはこちらhttps://wakuwakutrip.com/archives/8672

ダムめぐりではダムカード集めが今ちょっとしたブームになっています。以前は大町ダムカードしかありませんでしたが、現在七倉山荘で食事や入浴または買い物をすれば、非公式ながら七倉ダムカードと高瀬ダムカードを希望すれば貰えますよ。

 

 

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