信州白馬山麓の小谷村は、栂池自然園・雨飾山・鎌池・塩の道「千国街道」・秘湯名湯の自然に恵まれた癒しのエリアです。中部山岳国立公園のこのエリアには、日本一といわれる白馬大雪渓やいくつかのロープウェイやリフト、ゴンドラを使った気軽な高原散策といった多彩なトレッキングコースが充実しています。
中でも秋の山岳紅葉を楽しむなら栂池ロープウェイで行けるスキーの聖地としてその名を知られる信州白馬村栂池高原がおすすめ。北アルプス連峰がより大きく感じられる中部山岳国立公園に指定されている栂池自然園は、標高1900m、オオシラビソの原生林に囲まれた高層湿原です。約100haの園内に5.5Kmの遊歩道が整備され、一周約3時間半で季節ごとに移りゆく大自然の営みを気軽に観察できます。栂池自然園が秋の色に染まり始めるのは9月中旬頃、木道の周囲のダケカンバやナナカマドが鮮やかに色づき始めると、秋は一気に足早となり周囲の山々から紅葉が下り山裾へ向けて彩の輪を広げ、9月末には園内が秋色に染まります。色とりどりの絵具をまき散らしたような秋の色彩美を撮りに出かけます。
標高839mの栂池高原駅で栂池パノラマウェイ往復乗車券+入園券(大人3600円)を購入します。栂池ゴンドラリフト「イブ」は全長4120m、乗り継ぐ栂池ロープウェイは1200m、ゴンドラとロープウェイを乗り継ぐ全長5320m、高低差合わせて1000m近く、まさに天空に近い場所までたった25分で到達する「栂池パノラマウェイ」を使っていざ天空へ出発です。
ゴンドラ近辺の紅葉は10月下旬ですが、景色のパレットの緑の色ですら次々に変わり、目にも鮮やかに楽しませてくれます。まさに動く展望台で、上空へ向かうにつれて、気分までスッキリしてきます。栂池ゴンドラリフト「イヴ」は6人乗りで20分の空中散歩を楽しんだ後、標高1582mの栂の森駅に到着します。ちょうど26号柱からは北アルプスや山麓の絶景がみれますのでゴンドラ支柱の番号には要注目です。
栂の森駅から栂の森遊歩道を250m下って栂大門駅で71人乗りのロープウェイに乗り換える途中には紅葉が混じるようになってきます。
栂大門駅から乗車時間5分で標高1829mの自然園駅に到着すると、ひんやりとした空気と賑やかな色とりどりの紅葉に包まれます。ロープウェー乗車間の紅葉は10月中旬に見頃を迎えます。
自然園駅から400mの舗装された坂道を、山麓にかかる雲海を振り向き振り向き楽しみながら上っていきます。「栂池ヒュッテ」や「栂池山荘」の前を過ぎ、ビジターセンターからは大きなリュックを担いだ登山者が、白馬大池方面へと分かれていきます。空気が澄み切り、草木が発する秋の山の香りが心地よい。まずはビジターセンターで今日歩くルートや見どころを確認します。
赤い屋根がひと際映える「栂池ヒュッテ記念館」の前からがいよいよ大小さまざまな湿原が点在する中部山岳国立公園「栂池自然園」の始まりです。遊歩道が整備されていて、下界とは異なる季節感を気軽に楽しめるのも人気の秘密です。
栂池ヒュッテ記念館は、栂池登山のベースキャンプとして70年以上にわたり愛されてきた旧栂池ヒュッテ。登山用具などの展示館となっています。写真はミズバショウ湿原より「栂池ヒュッテ記念館」を望んだものですが赤い屋根が印象的です。(入館無料)
白馬乗鞍岳の火山活動に伴ってできた階段状の断層にある平坦面の窪みに池ができ、ミズゴケやワタスゲなどの植物が自生しました。冷涼な地域ではこうした植物が枯れても腐ることなく泥炭化して長い年月をかけて堆積して生まれたのが栂池自然園の湿原です。
最初に出迎えてくれるのが、標高1860mにある「ミズバショウ湿原」。名のごとくメーンステージは6月末から7月上旬にかけてのミズバショウの群生が見られる時期ですが、この時期は黄金色に染まる草紅葉の上に黄葉と白い幹のダケカンバ等が鮮やかに紅葉する木々と北アルプス(写真正面が小蓮華山)が望めます。(紅葉本番は10月上旬)
岩の間の残雪が冷たい風を吹き出す天然クーラー(この日は9℃でした)の風穴を過ぎたあたりから標高1870mにある「ワタスゲ湿原」に出ます。7月中旬から8月上旬にかけては、ニッコウキスゲの黄色い花とワタスゲの白い花穂が日光とそよ風に吹かれてキラキラ輝く場所です。が、この時期は丁度、ウラジロナナカマドが目の覚めるような真っ赤に染まり、落葉したダケカンバの白い幹とネマガリダケの緑が見事なコントラストを見せ、一押し撮影スポットです。
ワタスゲ湿原をあとにして清流・楠川を渡ったあたりから急な上り坂になりますが、急に開けたところからが標高1920mの「浮島湿原」です。栂池自然園入口から約1時間、散策コース全体でみればちょうど中間あたり。大きく開けた湿原中央に小さな池があり、その中に丸い浮島が頭を出している様子が由来で、高層湿原の象徴的な湿原風景が広がります。静寂に包まれた池糖に映る白馬岳の姿は園内随一の撮影スポットになっています。チングルマやクロマメノキの草紅葉が広がり、斜面には緑から黄色へと色付き始めたダケカンバ、さらに上には針葉樹のオオシラビソが緑を添えています。ワタスゲ湿原と浮島湿原は、絵具箱をひっくり返したような印象的な景色が広がります。
清らかな冷たい北アルプスの湧水である「銀命水」を過ぎると、食中植物のモウセンゴケが群生する小さな池「モウセン池」があります。木のベンチがあって休憩にはおすすめの場所です。スタート地点の栂池ヒュッテからここまで約1時間半、距離にして約2.5Km、高低差140mを登ってきました。
モウセン池で一休みしたあとは、20分ほどで自然園の奥に位置する標高2010mの「展望湿原」に到着します。間近にせまる白馬三山の雄姿と白馬大雪渓の展望が楽しめる絶景スポットです。白馬大雪渓は標高1570mの所から全長約3.5km、標高差600mというスケールの大きさで日本三大雪渓のひとつに数えらえています。白馬大雪渓のある中央の山が杓子岳で、右手の稜線つたいに白馬岳、左手奥に白馬鑓ヶ岳が望めます。大雪渓の白、オオシラビソの緑、ウラジロナナカマドの赤が織り成す三段紅葉に大感動です。
北アルプスは背後に日本海があるため、雨や霧が多いのですが、秋には空気が乾き、晴れる確率が上がります。山の天気は変わりやすいので、入園した時には曇って視界が悪くても、急に晴れて白馬三山が姿を現すこともあります。展望湿原の階段状のベンチでは、そうした自然が織り成すショーを見る客席のようなものです。休憩しながら壮大な景観を楽しみます。
標高2020m自然園内最高地点、ヤセ尾根のピークには展望台があり、ここからも白馬三山や白馬大雪渓を間近に望むことができる絶景スポットです。
ヤセ尾根を下っていく急な階段の途中にサラサドウダンの燃えるような紅葉がすばらしく、右手眼下に広がる広葉樹林の紅葉の中に雁股池や栂池の眺望も素敵です。標高差での紅葉の移り変わりを楽しみながら戻っていきます。
帰路は楠川を渡り、風穴を過ぎれば、行きに通った木道でなく、右手の方に進みます。このあたりはある程度遠くを見渡せます。
栂池自然園は、高山植物の宝庫と呼ばれ、4つの湿原を渡るように敷かれた木道を歩くと、春を告げるミズバショウの大群落、7月頃ふわりと風に揺れるワタスゲの白い綿毛、8月には太陽の日射しを浴びて黄金色に輝くニッコウキスゲの大群落、浮島がつくり出す幻想的な美しさと、次々と表情を変えていきます。
自然園の入口と最高地点となる奥の展望台では標高差が約190mもあり、遊歩道を進むにつれて白馬三山がぐっと近づき、自然園最奥の展望湿原では残雪の白馬大雪渓の白と木々の緑が織り成す清々しい景色が楽しめます。高山植物を見る楽しみ、山岳景観を眺める楽しみ、歩くことの楽しみ、自由にいろんな楽しみに出会える大自然があるのが「栂池自然園」です。
朝一番のゴンドラに乗ると時間はちょうど11時頃、白馬村の蕎麦屋を目指します。冬はゲレンデ、夏はトレッキングと観光の立ち寄りにも便利なエコーランドの入口近くの交差点脇にある和風建築と白い暖簾が目印のお店が「蕎麦酒房 膳」です。
天気に恵まれれば座敷から五竜岳、白馬三山を望む好立地にあり、新潟糸魚川から運んだ民家の古材を使った店内は太い梁や柱を生かした重厚感のある造りの中に、家具職人が手掛けたカウンターや椅子、座卓などモダン和風な雰囲気があり、長居したくなります。
座敷やテーブル席の個室にカウンター越しのおしゃべりも楽しく、シチュエーションにあわせて選べます。
白馬産や安曇野産など県内産の粉にこだわって手打ちし、店内に掘った井戸からはそばにちょうどいい水温の北アルプスの伏流水が湧き出て、キリっと引きしまったそばができあがります。数量限定の十割そばに二八そば、季節のてんぷらがおすすめです。数種の鰹に鯖をブレンドし、利尻昆布でとった辛口のつゆにマッチしています。
疲れた身体を癒してくれるのは温泉です。白馬八方温泉の源泉は、白馬鑓ヶ岳直下の蛇紋岩層から湧き出ている温泉で、岩層を通りぬけたことによる粒子のこまやかさに特徴があります。また水素イオン濃度(ph)は11.3と全国一の強アルカリ度を示し、美肌効果の高い「美人の湯」としても有名です。強アルカリ性の湯は肌にやさしく、しばらく浸かっているうちに、角質がとれてツルツルすべすべに、また入浴後は湯冷めもしにくく温浴効果も上がるといいます。そのほかハイキングの疲労回復にはもってこいなのです。薬効豊かな八方の源泉を引いているのが、白馬八方和田の森に建つ、樅の木ホテルです。
館内は石と木が調和した落ち着いた雰囲気で、リゾ-トホテルならではのゆとりある空間を演出しています。
温泉への情熱を傾けた14代庄兵衛に因んだ「庄兵衛の湯」でゆったりと湯浴みを楽しみます。サウナもある大浴場と露天風呂には無色透明な湯が注がれ、強アルカリ性の湯は肌にやさしく、さらりとした肌触りが気持ちいい。
2021年9月23日再訪し、温泉は公営の雨飾高原露天風呂に入浴。