湯けむりが漂うなか、ふんわりとした卵のにおいに寛いでいると、少し鼻につくが、これぞにっぽんの温泉の香りと思えます。福島県の県北、福島駅から西へおよそ17kmという距離ながら、高湯温泉は磐梯吾妻スカイラインの東側の起点にあたる、標高750mにある静かな山峡の湯の里の趣です。開湯は慶長12年(1607)と伝わり、400年余の歴史を誇る奥州の名湯で、濃い硫黄泉を漂わせる高湯温泉はかつて信夫高湯と呼ばれ、最上高湯(蔵王温泉)、白布高湯(白布温泉)とともに奥羽三高湯として知られていました。2000m級の山々が連なる吾妻連峰の懐、吾妻小富士方面へ次第に標高を上げていく県道と尾花沢沿いの山間、およそ1.3kmの範囲に全部で9軒の湯宿と1軒の共同浴場「あったか湯」が点在するのみです。
その特徴は、硫化水素臭漂う自然湧出の硫黄泉で時間の経過とともに白濁する名湯。現在8本の源泉があり、毎分3158ℓの湧出量を誇ります。それも42~51度の源泉を、赤松材の木樋で自然流下させることによって適温に冷まし、各施設の湯船にはぜいたくにも文字通りのかけ流しで配湯されています。平成22年6月に東北で初めて、全国では9番目となる「100%源泉かけ流し宣言」をしています。
なかでも旅館 玉子湯は、江戸期の伝承によると、地元で炭焼きを行う者が大やけどを負った際、玉子湯につかることで完治させてとか。それほどの薬湯ゆえ、何とか人々のために役立てたいと、明治元年(1868)に旅館 玉子湯が創業されました。泉質は酸性の硫黄泉。一般的にはピリピリと強い温泉のイメージですが、玉子湯はとにかく肌触りのやわらかさが格別です。ひと風呂浴びるたびに、その名の通り玉子のようなすべすべ肌になり、傷跡が消えた、皮膚病が改善されたといった効能があります。
宿の正面にある山の斜面を整備して温泉庭園を造り、庭園を見下ろす高台に温泉神社も建てられています。湯小屋玉子湯の脇から橋を渡り、庭園の間を登っていくと約1kmほどの散歩道があり、時間を忘れてゆっくりと歩いてみたい。
旅館 玉子湯では自然湧出の自家源泉と共同源泉を引き湯していて、湯量は豊富。館内に男女別の内湯はありますが、人気のお風呂は宿泊棟をいったん出た温泉庭園にあります。敷地内の庭園すぐ正面で出迎えてくれるのが、明治元年創業時の面影が残る築150年も経て来た茅葺きの湯小屋玉子湯です。床や内壁の木の温もりといい、もくもくと湯煙に包まれた様子といい、湯治場風情あふれる昔ながらのスタイルがまたいい。脱衣棚が湯船のそばにあるのも昔ながらの造りです。
茅葺き屋根の建物に入ると中はこじんまりとした男女別の内湯となっています。湯船は酸性の湯にも耐えられる松の木作り。湯の色は鮮明なエメラルドグリーンですが手ですくうと湯は透明でふわふわと小さな湯花が浮かび上がる。湯船の底を足でかき混ぜると、白濁した湯花が盛り上がってきて湯を真っ白く染めます。
また露天風呂が点在し、浴衣姿での湯めぐりが楽しい。湯小屋の左側をさらに下って行くと女性専用露天風呂「瀬音」があり、また茅葺き屋根の脱衣所を挟んで「天渓の湯」と「天翔の湯」と名付けられたダイナミックな野天岩風呂が隣あわせで並んでいます。※男女交代制。写真は「天渓の湯」
庭園の木々が迫るどの露天風呂も眼下に須川の渓流を望み深山の澄んだ空気を満喫しながらの湯浴みが爽快です。湯船を満たすのは、乳白色にほんの少しコバルトブルーを溶かしたような白濁湯。身を沈めるほどに湯船の縁からぜいたくに流れ出て、たっぷりのかけ流しの湯がこの上なく気持ちいい。自然湧出の源泉4本を混合し、46.5度の源泉を湯船で42度になるよう湯番がこまめに調節しています。写真は「天翔の湯」
ほかにや足湯、館内の大浴場「滝の湯」があり、全部で7つの湯処があります。酸性ーカルシウム・ナトリウムー硫酸塩温泉の泉質は肌に刺激が強いので長湯は禁物です。