上信越高原国立公園の南に位置する湯ノ丸山(標高2099m)の東麓、湯ノ丸高原から池の平、高峰高原と湯の丸高原林道で結ばれる一帯は、位置的な条件から、太平洋気候と日本海気候が交差するため、気温差が激しく、亜高山帯でありながら高山性植物と低山性植物が混生している貴重な地域で、一帯は「花高原」として親しまれてます。湯の丸高原の有名なつつじ平のレンゲツツジの大群落は、国の特別天然記念物にも指定され、6月中旬から7月初旬、湯の丸山の山肌を鮮やかな朱色の絨毯のように染め上げます。また池の平周辺では高山植物の女王とも謳われるコマクサの群落を見ることができます。のどかな出会いのある高原に出発です。
湯ノ丸高原は浅間連峰の西側に位置し、湯の丸山、烏帽子岳、東篭の登山、西篭の登山周辺のゆるやかな斜面に広がるエリアです。周辺の山々は、比較的登りやすい山容で、雨の少ない安定した気候と抜群の展望から、初心者も安心して登れるコースとして人気があります。湯の丸山(2099m)はその名のとおりお椀をふせたような丸い形が特徴で、烏帽子岳(2066m)は湯ノ丸・浅間山系の最西に聳え、古の貴人の被る烏帽子のように尖った頂上の形から、その名が付いたといわれます。篭の登山(東篭の登山2228m・西篭の登山2212m)の篭の登とは不思議な名前ですが、」かつて山が信仰の対象であった頃、天に最も近いところという意味から「加護の塔」と名付けられたとも言われます。写真左手に東篭の登山がそびえます。
散策のスタートは湯ノ丸バス停(地蔵峠)。湯ノ丸スキー場のホテル、駐車場などと県道を隔てた反対側で、ここから湯の丸登山道の木立の中を上って行くと、第一ゲレンデのスキーリフト終点に到着します。
このつつじ祭期間中はリフトが運行されていて楽をして片道10分の空中散歩を楽しみます。湯の丸のなだらかな地形は牧場に適していたため、明治37年(1904)から牛などの家畜が放牧されています。牛はロードジャポニンという有毒成分が葉に含まれるレンゲツツジを食べないため、レンゲツツジが残り、広大な群落を形成するようになりました。
リフトから降りたあたりがつつじ平(コンコン平)で、シーズンともなると大ぶりな花弁のレンゲツツジがあたり一面に咲き誇ります。正面の湯ノ丸山を眺めながら、腰まで花に埋まるように群落の中の散歩道を進みます。
青空に朱色が映えて美しく、ツツジの下には小さな黄色の花弁をつけたウマノアシガタ(キンポウゲ科)も見られます。
駐車場に戻り池の平湿原を目指します。登山道を進めば60分ほどですが、車で移動、湯の丸林道を走ること10分で到着します。(駐車料金500円)三方ヶ峰(2040)の火口原、標高2000mの位置に広がる高層湿原が池の平湿原です。池の平周辺の浅間山麓一帯の地域は、温暖な里山から、一気に標高2000m超の山頂へと急峻な地形になっています。そして内陸性気候ということから昼夜の気温差、年間の気温差がとても大きく、特色ある気候条件にあります。そのため里山に生息する動植物から、本来ならば3000m級山岳地帯に見られるような高山性の動植物までが、この狭い一帯に混在し生息しています。そのような特有な環境が池の平湿原を多様な自然がおりなす、高山植物の宝庫としてくれました。
先ずはトイレもある避難所・指導員詰所から池の平湿原を目指します。池の平湿原へのアプローチは2通りあり、ひとつは入口から左に下る最短ルート。もうひとつは右の山道から尾根道に上がり、「雲上の丘」「見晴岳」「三方ヶ峰」を経由する周回ルートです。今回は入口から左に標高2061mのこの地点から湿原にある鏡池(標高2000m)まで下ります。
綺麗に木道が整備されていて、子どもから年配の人まで、気軽にのんびり散策すのにいい。緩やかな下りで気分も爽快です。
池の平湿原に徒歩約15分で到着です。ここはかつて、火山の火口だったところで、数万年前、湿原の南側にある三方ヶ峰の大噴火により、山の大部分が崩れ、陥没して湖ができました。そこに雨水と共に土砂が流れ込み、その上に植物遺体が半分解のまま堆積して泥炭層となりました(そのスピードは年間1mm)。やがて泥炭層の上にミズゴケが生えて、水を貯め、湿原となりました。ゆったりと開けた湿原を木道が囲い、癒されながら周回することができます。写真前方に三方ヶ峰が見えます。
湿原の西端を南、三方ヶ峰方向にすすむと鏡池(標高2000m)があります。池の平湿原で最大の池塘です。
忠治の隠れ岩広場から500m(徒歩15分)で三方ヶ峰(2040m)に着きます。白根、湯の丸、北アルプスなど後立山連峰を見渡せる絶景も見どころのひとつですが、南斜面の岩場には高山植物の女王“コマクサ(駒草)”の群落が待っています。通常は標高3000m位の高山でなければ見られない花ですが、ここでは保護用のフェンス越しに見られます。他の植物が育たないような高山の砂礫地に地下深く根を伸ばして点々と咲きます。和名は花の形が馬の顔に似ているためで、学名はperegrinaで外来のを意味し、命名者はあの植物学者・牧野富太郎です。
まさしく孤高という言葉がよく似あいます。白いシロバナコマクサは珍しく、自生では稀に見られる。
池の平湿原に戻り「忠治の隠岩」という巨石群を右手に見ながら木道を進みます。江戸時代の侠客だった国定忠治が上州赤城からの逃亡に途上で隠れた場所と言われ、三方ヶ峰火山の活動で出来た溶岩の塊です。忠治の隠岩は赤城山の“忠治の隠れ岩屋”などがいくつかあり、西上州が縄張りだった忠治は、嘉永3年(1850)大戸関所(吾妻郡東吾妻町)で磔の刑になるのですが、不都合があるたびに関八州の取締りの及ばない長野側にしばしば逃れていたと考えられています。そのルートは、大戸から信州街道の苅宿・鳥居峠を越え、大笹街道・須坂・長野へ抜けるルートや草津宿から渋峠を越え中野に至る間道がよく使われていたようです(志賀高原の硯川の“忠治の隠れ岩”)。警戒が厳しいと、より目立たない広大な浅間山麓の獣道を利用し、浅間山麓・鬼押出しの六里ヶ原を横断して、信州小諸に抜ける車坂峠を利用していたとされ、その際に三方山の岩屋を利用したのでは、と思いをめぐらします。
さらに湿原に沿って木道を進みます。立ち枯れ木を見ながら400mほど緩やかに上っていくと開放口に着きます。
池の平湿原は三方ヶ峰の火山活動によってできたすり鉢状の地形に湿原が形成されたと考えられていますが、開放口は、このすり鉢状の地形の縁にあたる外輪山の一部が崩れてできたものです。現在、湿原の南麓に位置するこの開放口からは佐久盆地一帯を見渡せ、西から東に向かって、小諸市、佐久市、御代田町の各市街地を眼下に望むことのできる見事な眺望が開かれています。
周回まであと500mほど歩いてグリーン広ばに戻ってこれます。あとは来た木道を戻り駐車場へ。標高2000mの雲上の散歩道を満喫しました。
体力のある人は、湯の丸山へ登山に向かったり、池の平湿原でも雲上の丘(2110m)から見晴岳(2095m)を通って三方ヶ峰に辿り着く見晴歩道を歩いたりするのもいいでしょう。ほど近くにはランプの宿・高峰温泉が控えているので、山に一泊し、高峰高原や東西篭の登山に登ってもいいですね。
この日は湯の丸林道で車坂峠に出、チェリーパークラインで小諸にでます。