湯の町散歩で魯山人と伝統文化に触れる加賀温泉郷「山代温泉」

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加賀大聖寺藩の藩湯として歴代藩主が愛した「山代温泉」は、加賀温泉郷の中で最も大きい温泉街で、大小19軒の温泉旅館が軒を連ねます。薬王院温泉寺に伝わる温泉縁起によれば、約1300年の昔、僧の行基が霊峰・白山へ向かう途中で、傷を癒すヤタガラスを見て発見したと伝えられる長寿の湯。そのことにあやかり、シンボルマークは、神の化身といわれ、神話に登場する霊鳥「ヤタガラス」。サッカー日本代表の胸の紋章にも使われる伝説の三本足の鳥です。戦国武将の明智光秀もここで戦で負った傷を癒したという逸話の残る良質ないで湯は、稀代の粋人、北大路魯山人ゆかりの古湯でもあり、幾多の伝統文化を育ててきた湯の町です。そんな湯の町をぶらり散歩で山代温泉の伝統文化に触れてみます。

第一はもちろん温泉文化です。明治時代に「総湯」が誕生したことにより、華やかな温泉町へと与謝野晶子や泉鏡花ら、山代温泉を訪れた文人墨客は多く、その魅力がつづられた作品もあります。2010年その明治時代の総湯が温泉街の中心地に復元され、「古総湯」の名でデビュー。2012年グッドデザイン賞を受賞した「山代温泉 古総湯」は、外装に県産杉と古瓦、そして伝統手法の杮ぶき屋根を用いて当時の外観や内装を再現しただけでなく、入浴方法もすべて明治期の総湯を復元したものです。入浴料500円を払うと番台さんが、利用方法を教えてくれ、入浴しながら温泉の歴史と文化が楽しめる「体験型温泉博物館」といった趣です。

浴室は脱衣場を兼ねた大名造りで、拭き漆塗りの壁や九谷焼でできた腰壁のタイルは、窓には赤や緑の色ガラスをはめ込んだステンドグラスを施した芸術的な空間は当時の趣が感じられるお洒落な造りです。洗い場はなく湯船のみで源泉掛け流しの湯があふれています。立ち上る湯けむりに包まれてしばし陶然としてしまうほど透明で熱い湯は名残惜しく、半身浴でいつまでも入っていたい気分です。

それぞれの浴室から2階の風通しのよい畳敷きの休憩処に上がれるようになっていて温泉街が一望できます。ここで男女が会えるようになっていますが、帰りは男湯や女湯に下りないように気をつけましょう。

 

日没と同時にライトアップされ幻想的な姿を見せます。

旧吉野屋旅館跡地に再建された地元住民が集う共同浴場「山代温泉総湯」は、旧吉野屋旅館の門を生かした入口、天窓から明るい光がキラキラと射し込む気持ち良い浴室。そして広々とした浴室には二つの異なる深さの浴槽があり、地元産石張りの浴槽には天然温泉(循環ろ過)がたっぷりと注がれています。

壁面には地元作家制作の山代ならではの多彩な九谷焼装飾タイルなどアートにも注目です。

総湯の隣に湧き出る温泉を利用した足湯&源泉公園もあります。屋根付きなので雨の日も安心して利用でき、足だけ温めても全身の血行が良くなります。足湯の注ぎ口からはミネラル豊富な温泉を飲むこともできます。

二つの総湯を中心に温泉宿や商家が立ち並ぶ温泉場特有の町並「湯の曲輪(がわ)」、は北陸特有の呼び方で、「元湯を取り巻く」という意味です。江戸期に形作られたもの。今も明治期の雰囲気の中でまち歩きを楽しむことができます。

加賀カニごはん」は、2015年4月1日にデビューした加賀市ならではの上品なOMOTENASHIカニごはん膳です。加賀市橋立港で水揚げされた貴重な香箱ガニ(雌のズワイガニ)を一杯使った加賀市内5店舗で楽しめるご当地グルメで、山代温泉にある「割烹 加賀」では、「ザ・ひつまぶし風石焼きカニめし」を限定10食・要予約で提供しています。

割烹加賀は40年以上にわたり愛される割烹。地元農家の新鮮野菜や橋立漁港で揚がった魚介、白米や醤油も地元産にこだわり丁寧に調理された料理を堪能できます。九谷焼や山中漆器のうつわ遣いも素敵です。

先ずテーブルに運ばれた山中漆器のお盆に載せられた色鮮やかな品々に目を奪われます。真ん中に九谷焼の板皿の上に同じく九谷焼の小鉢5品。そしてその中央に温玉「なかむらくん」のかわいい笑顔が素敵です。小鉢には地場産の魚の西京焼、季節のキノコの和え物、メゴチの天ぷら、酢の物、季節の野菜サラダの5品、右手には九谷焼のグラス受けに丸八製茶場の献上加賀棒茶の芳ばしい香りが、そして山中漆器の吸い物椀に地場産の味噌を使った味噌汁が載っています。ちなみに「なかむらくん」は店主の名です。

しばらくするとメインのカニごはんが運ばれてきます。石焼きの器の中のごはんの上には、カニの外子の醤油漬け、カニ身、カニの出汁ゼリーといったカニ尽くしに、アクセントで梅そうめん、カニせんべいが乗っています。これをしっかり混ぜ、温玉「なかむらくん」を割って入れてくずしながら食べます。1杯目はそのまま、2杯目に薬味(のり、大葉、ネギ、わさび)を入れていただくことでカニの風味がくっきりと引き立ちます。コクの深いカニ出汁はシメでお茶漬け風にしていただきます。

最後にデザートとしてカステラと季節のアイス、季節の果物をコーヒーと一緒にいただきます。これでお値段なんと1950円(税込)はお得ですよ。

古総湯前に立つのが紅殻格子に風情が懐かしい「はづちを楽堂」。その名は、温泉の鎮守「服部神社」にまつられる神様、アメノハヅチヲノカミからいただいています。ショップやギャラリー、湯上りサロンなどイベントスペースを備えた湯の曲輪の休憩スポットで、誰でも気軽に立ち寄って自由に時間を過ごすことができるうえ、各施設のパンフレットなどが置いてあるので情報収集も可能です。

ご当地キャラクターの「やましろ すばクロくん」もお出迎えです。

散策の疲れやお風呂上がりに立ち寄ってみてください。通路を挟んで東側にあるのが、九谷焼の手頃な品や地元名物を集めた丹塗り屋。

西側にはに元食材を使った、古民家風の甘味処・はづちを茶店があります。○に“は”と書かれた白い暖簾が目印のクラシックなカフェでは2016年3月12日デビューの「加賀パフェ」がいただけます。香ばしく甘い丸八製茶場の加賀献上棒茶をゼリーとチュイールにし、さらに創業文政2年(1820)創業、山代みやげの代名詞「れんの羊羹」の永昌堂のあずきを添えたパフェは如何ですか。加賀麩のラスクと塩&バジルを添えた自家製温泉玉子が味の広がりを演出しています。

山代温泉を特徴づけるもう一つの文化が伝統工芸です。加賀の地は、日本を代表する色絵磁器である九谷焼のふるさと。温泉街を散歩すれば、至る所で九谷焼の窯元やギャラリーが迎えてくれます。

山代温泉を愛した文化人は多く、なかでも書、陶芸、美食など、その多才ぶりで知られる芸術家・北大路魯山人が陶芸に目覚めたのもここ山代温泉で、その関わりは特別でした。湯浴みのあとは、湯の曲輪をぶらぶらと魯山人の面影を探しにでかけます。魯山人が学んだ九谷焼の窯元「須田靑華」は、明治24年(1891)に初代須田靑華が開いた4代続く窯元です。ここの篆刻看板を製作した魯山人はのちに初代の元で作陶の基礎を学びました。初代はこの篆刻看板の見事な出来栄えに感銘し、彼を窯場に招き入れたといいます。

半数寄屋造りの店内には登り窯で焼成された“用の美”をモットーにした作品が並んでいます。花模様があしらわれた湯呑みやモダンな絵柄の皿など、毎日使いたくなる器がたくさん、一つひとつの表情が異なるので、しっかりと選びたいものです。

薬王院温泉寺から服部神社へと抜けます。

服部神社」は機織のおや神・天羽槌雄神と、明治8年(1875)の合併した白山神社の御祭神・菊理媛神、山代温泉の守り神である山代日子命を祀っています。天羽槌雄神を祀っていることから「機織が織り成す縁」、菊理媛神の名にちなみ「縁をくくる」として、縁結びの御利益が期待できます。

石段を下りたところ鳥居の横に、願いをひとつだけ叶えてくれるお地蔵様「ひと言地蔵」を右折し、

万松園通りに入ります。

万松園通りにあるのが、“美と食の巨人”若き魯山人が審美眼を磨いた「魯山人寓居跡いろは草庵」。32歳の福田大観(のちの北大路魯山人)が、金沢の文人細野燕台の案内で大正4年(1915)10月から約半年間、篆刻看板を制作しながら居候した旧吉野家旅館の別荘です。看板を彫る傍ら、山代の旦那衆と語らい、親交を深めた囲炉裏や仕事場が当時のまま残されています。母屋は1870年代に建てられた木造二階建て、瓦葺。建築面積72㎡、切妻に煙出に小屋根を取り入れています。紅殻塗りの格子や壁は鉄分を含み、耐久性が強いことから加賀地方の建造物によく用いられます。2001年に国登録有形文化財になり、2002年10月より一般公開されています。

出入り口を入るとすぐに「囲炉裏の間」があります。魯山人はこの囲炉裏の間で芸術に造詣が深い山代の旦那衆たちと書や美術、骨董について語らい、山代の文化サロンとなりました。また宿の板前から、食材の選び方や調理法を学び、加賀の豊富な食材を使った料理を味わい、審美眼と舌を養ったのです。

左手続きの寓居1階には、魯山人が刻字看板を彫るために仕事場としていた庭を望む部屋はあります。山代温泉に来た魯山人が最初に手掛けたのが『吉野家』の看板でした。制作途中の状態も展示されていて看板製作に励んでいた若き魯山人の姿が目に浮かびます。

その奥には陶芸家 原呉山が設計された茶室があり、魯山人滞在時には茶会が開かれていました。

土蔵を改装した展示室には魯山人が彫った刻字看板や作品の他、ゆかりの方達の作品も企画展示されています。一回りしたら山代に残る魯山人作品の屏風のモチーフとなった樹齢百数十年の檜葉の古木が残る四季折々の庭を眺めながらロビーでほっこり寛げます。入館料500円にはこのロビーでのお茶とお茶受けが付いています。山中塗りの漆器のお盆の上には、マカダミアナッツが香ばしさのアクセントになっている“地の香”というきな粉を水飴で練り上げ、上質の和三盆をまぶした干菓子と九谷焼の湯呑に注がれた丸八製茶場の献上加賀棒茶がいただけます。和三盆のすっきりとした甘さと棒茶の芳ばしさで身も心もまったりです。

二階には大正期山代の旦那衆たちが好んだ謡の本などが展示されています。

山代温泉を一望する高台に凛と佇む緑の自然に包まれた癒しの宿が今宵の宿「みどりの宿 萬松閣」です。創業は昭和5年(1930)、以来宿名の「みどりの宿」に相応しい、緑の自然に包まれた癒しの宿」です。

1300年の昔よりこんこんと湧き出る温泉のなかで、加賀温泉でも希少な「山代新一号源泉」を加水加温なし100%源泉掛け流しで堪能できる拘りの湯。無色透明のなめらかな湯は美肌効果が高いと評判です。四季に移ろう美景とともに至福の一時が過ごせます。男女別の大浴場菖蒲湯と露天風呂花菖蒲の湯船にはなみなみと湯が満たされています。男性用の露天風呂は、銘石・六万石でしつらえた情緒豊かな「六万石露天風呂」、心と体をときほぐしてくれます。

山代温泉に泊まって湯浴みを楽しんだ後は、カラコロと下駄を鳴らして、湯の町散歩に出かけてみましょう。

加賀市が推進している観光戦略に「加賀市内の回遊性向上に向けた1泊2日3湯4食作戦」があります。加賀温泉郷(山代・山中・片山津)のどの温泉地に1泊2日で泊ろうとも3湯(3温泉にはそれぞれに日帰りの共同湯がある)に入浴してもらい、食事は宿の夕食・朝食に加えて市内でプラス2食を楽しんでもらうという作戦です。その作戦に基づいたのが、お昼の「加賀カニごはん」であり、3時のおやつの「加賀パフェ」です。

そして加賀の3っの温泉郷をめぐる便利な周遊バスが「キャン・バス」です。JR加賀温泉駅を起点に1日券1000円/2日券1200円で周遊でき、乗り降り自由なので好きな目的地を選んでオリジナルの旅が楽しめます。

 

 

 

 

 

 

 

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