忍者の里の渓谷と名瀑を楽しむ。赤目四十八滝で森林浴三昧

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奈良時代の修験道の開祖として知られる役行者が、修行中に赤い目の牛に乗った不動明王に出会ったとの言い伝えから「赤目」の名を冠して名付けられた赤目四十八滝渓谷は、清冽な流れを湛えた深山渓谷。そこは奈良と三重の県境、室生赤目青山国定公園の中心に位置し、万葉の頃から隠(なばり)と呼ばれた名張市を流れる滝川の上流にあり、川の流れが穿った深い渓谷には、数多くの滝が懸かり、総じて四十八滝と呼ばれます。急峻な地形から古くから山岳信仰の聖地となり、修験者や忍者が修行した修行場でもありました。かつての修験道は観光用に遊歩道が整備され、約4kmにわたって続く渓流沿いの道をゆくと、美しい瀑布が次から次へと現れます。四十八と言っても多くの滝があるという意味で、滝の数は21箇所ですが「赤目五瀑」と呼ばれる赤目四十八滝の中でも大きく、美しいとされる五つの名瀑を筆頭に数々の美しい滝が存在します。

「日本の滝百選」「森林浴の森百選」「遊歩100選」「平成の名水百選」にも選定されている美しい原生林に包まれた渓流沿いを約3時間かけて往復するのですが、アップダウンのある全長約4Kmの散策路は、変化に富んだ風景の連続です。大自然の息吹を感じながら、いざ名瀑ウォークに出かけます。

赤目滝バス停の先に元旅館の建物を近代的に改装し2020年にオープンした赤目自然歴史博物館があります。赤目渓谷の自然、歴史、文化の資料が展示されていて、赤目渓谷が不動滝より上流に行けるようになったのは、明治31年(1898)からのことで、それまで人の立ち入ることのできなかった険しい原生林で、山岳修行の聖地であったことを知ります。

赤目温泉「隠れの湯 対泉閣」を正面にしたY字路を右手に、赤目餅本舗 上田屋をはじめ、みやげ店・食事処が並ぶ通りを道なりに少し歩くと、入山口の手前、遊歩道の北側のオオサンショウウオの形をしたモニュメントから流れている「じゃんじゃの水」があります。その昔、忍者が修行の時にその身を清め、心を鎮めたと伝えられている湧き水です。

渓谷入口が「日本サンショウウオセンター」になっています。赤目生まれを含む9種、約50匹が水槽に展示されています。中でもこの渓谷に生息するオオサンショウウオは、古来よりその姿が変わっていない生きた化石ともいわれる国の特別天然記念物です。世界最大の両生類であるオオサンショウウオが飼育されているのですが、ガラスごしに見ると、砂や岩のような姿をしていてよく見ないと判別が難しいです。入山料を払い、館内からそのまま渓谷への遊歩道に出ます。

森に一歩踏み入れるやいなや、その空気の濃さに圧倒されます。湿気を帯びた深い緑の匂いと苔の独特な香りが漂い、背筋が伸びるような冷気が立ち込め、涼やかで清澄な空気に包まれます。水音だけが聞こえ、忍者はここでどんな修行をし、何をかんがたのだろうかと考えながら、奥へ奥へと進みます。

100mほど行くと、さっそく行者滝に出会います。役行者が修行したといい、岩を挟んで二つに別れて流れ落ちる落差約3mの滝です。そのすぐ上流の銚子滝を見ながら石段を渡り、谷を越え霊蛇滝を見ながら石段を上ります。霊蛇滝は落差6m、滝そのものの美しさもさることながら碧く澄んだ深さ約7mの滝壺も滝に劣らぬ美しさです。霊蛇滝の名は白蛇が岩をよじ登る趣があり、滝の流れの中に顔を出す岩が竜の爪痕を思わせるので付けられました。この滝には伝説があり、紅葉の枝を折ろうとする人間がいれば、たちまち巨大な白い大蛇が現れると伝えられています。なんでもその白蛇はこの地に住んでいた娘の化身であり、赤目の自然に対して乱暴なふるまいを行おうとした織田信長の軍勢を追い返したこともあるそうです。そこに地名の由来となった伝説の赤い目の牛の像が安置されています。

滝見台を兼ねた不動橋を渡ったところにあるのが「赤目五瀑」最初の不動滝です。不動明王にちなんで名づけられ、滝そのものが不動尊とされる高さ15m、幅7mの勢いのある名瀑。百数十年前まで「赤目の滝参り」といえばこの滝に参ることを意味し、明治の中ごろまではここから奥には入れなかったといいます。渓谷に架けられた不動橋からの眺めは壮観です。

ここからはすこしづつ変化に富んだ道になっていきます。しばらく行くと滝も淵も小さくやさしく清純な乙女のような乙女滝があり八畳岩へと続きます。渓流の中に広さが八畳敷ほどもあるひときわ大きな岩が転がっているのが八畳岩です。弘法大師空海が修行した時、たくさんの天童がこの上で舞楽したという伝説があり、“天童舞台石”という名もあります。

その先の橋の上から見えるのが2つ目の赤目五瀑「千手滝」です。高さ15m、幅4m。複雑な形の岩を千手のように幾筋もの水が滑り落ちる美しい姿から、千の手を持つ千手観音にちなんで名付けられたとも言われていわれています。滝、岩、樹木、滝壷が調和した、絵のような美しさは見ごたえがあります。

悲しい言い伝えも遺されていて、戦国時代、この付近の城が織田信長によって陥落させられた際、城主の娘であった千手姫は恋人であった本間草之介とともに山中に逃れましたが、やがて追手に追いつかれしまい、滝壺の中へ飛び込んで命を絶ったのだそうです。この滝の名前は、その伝説に由来しているともいわれます。

空海ゆかりの護摩の窟を見ながら、細い山路を辿る。すぐの上流に3つ目の赤目五瀑「布曳滝」が見えます。高さ30mから、名の通り一条の白布を長々とたらしたような優美な姿の滝。しかし細く急な滝が固い岩を穿った滝壺の深さは実に30mあり、引き込まれそうな神秘的な美しさです。滝の上部から見ると、垂直に流れ落ちるさまには目を奪われます。

元々は本当に布であったとの言い伝えられています。なんでもはるか昔、とある豪族の娘がこの地で迷子になってしまった時、どこからともなく聞こえてきた声にしたがって布を垂らし岩肌をつたい降りたところ、その布が滝へと変化したという不思議な話です。

滔々と流れる清水、渓流が岩に当たって飛沫を散らし、野鳥のさえずりに耳を澄ます。心地よい渓流の音を聞きながら、苔むす緑の美しさに包まれた快適な道を進みます。竜ヶ壷は水が岩盤を石臼のように掘り抜いて、底なしとも言われる程深い滝壺で、ここには竜が棲んでいるという言い伝えがあり、そこから名付けられました。このあと「縋藤滝」「陰陽滝」を経て「百畳岩」とい一枚岩の大きな岩盤が広がる広場にたどり着きます。ここがちょうど中間地点あたりになります。

さらにアップダウンのある岩場を進むと「七色岩」「姉妹滝」、落差は小さいが、苔むした岩盤とのコラボが美しい「柿窪滝」、「笄滝」へと続きます。笄滝が流れ込む滝壺は「横渕」とも呼ばれ、吸い込まれるような色です。遊歩道に雨を降らしているのは「雨降滝」で、ここから道はうねうねと曲がり、「骸骨滝」「斜滝」と続く。牛ケ淵という深い淵を過ぎて登っていき、このあたりまで来ると渓谷も深く木々も原生林のごとく生い茂り、岩は苔生し大自然を十分に満喫できる。

そして石段を上りきると4つ目の赤目五瀑、渓谷随一の景観といわれる「荷担滝」に出合います。高さ8mの滝が岩を挟んで二つに分かれて流れ落ちる姿が、まるで背中に大きな荷物を背負っているようだということから名付けられました。すぐ上にも滝があり、個性的な姿が人気で赤目四十八滝のシンボル的存在です。

さらにその先の一枚の岩が幾段にもなってその上を清流が流れていて、ひな段のように見えることから名付けられた「雛段滝」、「琴滝」を過ぎると、5つ目最後の赤目五瀑「琵琶滝」が現れる。「琵琶滝」は落差15mで滝の形が楽器の琵琶に似ていることから名づけられました。奥まった絶壁に囲まれ岩風呂のような滝壷は深い蒼色をして澄んでいます。

「赤目五瀑」をめぐったところで引き返すことにしましたが、時間が無い場合や足に不安がある人は、茶屋がある千手瀧とそこからほんの少し登った所に懸かる布曳滝を鑑賞して帰るとよいでしょう。百畳岩から先は、健脚向きのコースとなりますが、足に自信があれば、赤目四十八滝を代表する景観ともいえる荷担滝は是非訪れたいです。さらに先には、渓谷ハイキングコース3290m、徒歩約90分の赤目四十八滝最上流の滝「岩窟滝」があり、中腹に深い石穴があるので岩窟滝と呼ばれています。ここからさらに600m、緩やかな細い山道を登っていくと県道784号赤目掛線沿いにある出合茶屋に合流します。バス停はあるものの運行はほぼゼロで紅葉シーズンには名張駅までバスが運行されるようです。※要確認

帰りの景色はまた行きと違ってみえるから不思議で、マイナスイオンいっぱいの散策道はリフレッシュに最適です。小腹が減った人には赤目自然歴史博物館の向かい「民芸屋たまきや」で販売している忍者・福笑門の「へこきまんじゅう」はいかがでしょう。さつまいもの生地を焼いたシンプルな和風スイートポテトといった感じの味です。

県道567号赤目滝線を戻り県道784号赤目掛線に折れた奈良県曽爾村へ抜ける山道に入ったところにあるのが、赤目温泉山の湯「湯元赤目 山水園」です。開業は昭和51年(1976)、シーズンには蛍が舞うという小さな流れの湯屋谷川をはさんだ谷間の大自然が織り成す四季折々の美しい風景が織り成す1万坪の敷地内に、ほとんどが平屋建て離れ風の26の客室が建つ純和風作りの閑静な隠れの宿です。周囲はうっそうとした杉や檜の美林に包まれ、市街地から10kmも離れていないのが信じられないほど閑静な環境にあります。

宿泊施設と入浴施設は分かれていて、旅館のフロントで日帰り入浴を御願いして向かいの温泉施設に向かう。園内から湧き出る天然温泉は肌にやさしい美人と健康の湯として親しまれ、近畿随一の天然ラドン含有率を誇る自家源泉の単純弱放射能泉「山の湯」で、新陳代謝を高め疲労回復に効能があります。浴場は【吉祥の湯】と【甘露の湯】の2タイプがあり、1日ごとに男女入替制です。

この日の男湯は「甘露の湯」という浴室で広い大浴場にもう一つ泡風呂が隣接していて、露天風呂も併設されている。

泉質は単純弱放射能鉱泉でなめらかな感触の湯、広い湯船に注がれるたっぷりの湯に浸かっていると赤目四十八滝めぐりの疲れが抜けていくようで、まさしく甘露な気分でした。

旅館入口には「牛汁」の旗がでていた。名張市内の伊賀牛専門店で賄い食として出されていた牛肉入りの吸い物が「名張牛汁」としてご当地グルメ化しているらしい。次回紅葉時にくることがあればここでの伊賀牛ランチを兼ねての日帰り入浴がベストプランではないでしょうか。

近鉄大阪線赤目口駅方面の戻り、瀧自慢酒造に寄って帰ります。創業は明治元年。赤目四十八滝の伏流水と契約栽培された酒造好適米を使い、伊賀盆地の澄み切った空気と寒暖差を利用して丁寧に醸す日本酒「瀧自慢」は、蔵元一体となった妥協のない酒造りうを目指しています。「百人が一杯飲む酒より、一人が百杯飲みたくなる酒」をと、小さな蔵だからこそできる名滝が流れる清らかな水が“こだわりの一滴”を生みます。。

赤目四十八滝のふもと、隠れ里の山中に忍者の修行の場「忍者の森」があります。織田信長と死闘を演じた(天正伊賀の乱)伊賀忍者の祖百地丹波が修行した赤目の滝、伊賀流赤目忍術の奥義を極め、秘伝の書を手にいれましょう。

 

 

 

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